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森は新しくなろうとして

冬至まであと数日。
陽光は精一杯、森の中を照らしています。
晴天の日が続き、森の雪はなくなりました。
森の入り口からサクッ、サクッと落ち葉を踏んで奥へ奥へと進みます。
落ち葉のこげ茶色と笹のくすんだ緑が地表を覆っています。
笹たちは雪に埋まる日々を知ってか、低い背丈のままで尖った葉先を地面に向けて垂らしていました。
落ち葉と笹だけの地表は、地面のなめらかな浮き沈みの様子を正直に伝えています。

ゴッ、ゴーッと地鳴りかと思わせる音を立てて、大きな風が森の中を走り抜けます。
どの樹も樹冠を揺らし、笹たちはカラカラと葉を擦れ合わせます。ぼくの伸びた髪も、吹かれるまま炎のようになびきました。
風が行ってしまうと、樹々や笹は黙って元に戻ります。
陽に照らされた樹々の幹は灰色で、乾いて見えます。その枝を飛び回る小鳥の声もなく、森から音が消えました。
空き家に来ているようだ
そう感じました。
森の音をぼくが吸収するのではなく、ぼくの呼吸の音や遠慮がちに立てる足音が森に吸い取られていくようです。

ホオノキの大樹に向かって進みます。
途中、こんもりとしたふくらみの上に立つ樹が目に入りました。近寄ると土を被った岩の上にナラの樹が立っています。

岩の上に三つ又のナラ

岩は二十歩ほどの周囲で、二歩、三歩と簡単に登れるほどの大きさです。
これまで素通りしていたのですが、岩の上に大きな樹がよくも育ったものだと改めて思います。
岩の頂から幹を伸ばすナラの樹は、根元から1メートル程のところで三つ又に分岐して、それぞれ太い幹が伸びています。三つの首を持つ森獣に見えました。

ホオノキの大樹の前に来ました。
見上げると、大きな草履のような葉はどの枝にもなく、分岐した細い枝はお互いに邪魔にならぬ方向に先端を伸ばしています。
根っこから生え出た幼い幹の先に、くすんだ緑の冬芽がついていました。その幼い幹の途中からも爪楊枝のような小枝が伸び、その先に小さな冬芽がついています。
指でつまむと、ホオノキの冬芽はギュッと締まって硬く、尖った先端は肉食獣の牙のように見えます。
見上げた樹冠の枝先にも、同じように冬芽がついているのでしょう。

冬芽(ヤマグワ クロモジ ホオノキ)

森の入り口近くにある落ち葉の平地に向かいました。
所々にいるクロモジの樹も、冬芽をつけています。緑を帯びた若い枝の先には、球形をした二つの花芽に挟まれた紡錘形の葉芽がありました。

落ち葉の平地に銀シートを敷いて寝転びます。
森の中には、また風が走り抜けて樹々の樹冠を揺らし、地表の笹の葉をカサカサと鳴らします。
風を聞きながら見上げていると、裸になった枝たちが揺れています。
太い幹から伸びた枝が何回もY字に分岐を繰り返して細い枝を伸ばし、最後の分岐を終えた若い枝は、枝というより針に見えました。
針に見える細く若い枝にも冬芽がついているに違いありません。

空き家に思えた森は、新しい森になろうと静かに準備を始めています。
そう思うと、どこからか元気が湧いてくる気がしました。

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