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130円のまんじゅうに負けた結婚指輪


結婚指輪を受け取りに、
「なつ」と南へと向かった。

1ヶ月の手取りが軽く飛んでしまう買い物だ。

人生でも、そう何度もあることではない。

店で指輪を受け取ると、
「なつ」は左手の薬指にはめて笑った。

「している感じがしないくらい、ぴったり!」

そのあとも何度も、

「ほら、見て。」

と、薬指を差し出してくる。

そのたびに僕も左手を見せ返して、
ふたりで笑った。

いい歳をした大人なのに、
まるで子どもみたいだった。


帰り道。

道の駅で、何気なく手に取った
フリーペーパーに「かき氷特集」が載っていた。

「ここ、行ってみようか。」

そんな一言で、予定になかった寄り道が始まる。

土曜日だというのに、最初の店は休みだった。

二軒目では、僕が食べたかった
宇治金時が売り切れていた。

「今日は、ついてないね。」

そんなことを言いながら、
ふたりでメロンのかき氷を食べた。

でも、人工甘味料不使用の
甘さを控えたシロップは、
どこか懐かしい味だった。

店内を見回して初めて、
この店が200年以上暖簾を
守り続ける「乙まんじゅうや」だと知った。

帰り際、せっかくだからと
乙(きのと)まんじゅうを三つだけ買ってみる。

ひと口食べて、思わず顔を見合わせた。

「これ、おいしい。」

もっちりとした生地。

甘さを控えた上品なこしあん。

この旅で、一番心に残ったのは、
給料1ヶ月分以上の結婚指輪ではなく、
130円の乙まんじゅうだった。

もちろん、指輪に意味がなかったわけじゃない。

結婚指輪は、これから
一緒に歩いていく約束のようなものだ。

毎日、左手ではめ続ける。

きっと何十年経っても、その意味は変わらない。

でも、人の心は、ときどき値札とは別のところで動くらしい。

予定していなかった寄り道。

閉まっていた店。

売り切れていた宇治金時。

その全部が重なって、
130円のまんじゅうとの出会いを連れてきた。

結婚指輪は、人生の節目だった。

乙まんじゅうは、人生の寄り道だった。

どちらも、あの日には欠かせなかった。

だから今でも思う。

旅の醍醐味は、寄り道。

そして人生もまた、
予定どおりに進まなかった日に、
忘れられない思い出を連れてきてくれる。



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澪(みお)│人生探究家│📖note実験室|フォロバ100% この記事が、あなたの心にちょっとでも寄り添えたなら、サポートしていただけると、とても励みになります。 いただいたチップは、これからの執筆活動と、同じように悩む誰かへの物語づくりに大切に使わせていただきます。

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