見出し画像

【3人話】支えを失った船は進めない ー海上保険のメッセージ


【読了目安:5分】

海上保険の戦争リスク拒否

シンイチ:これは真剣にまずいな。

アオイ:どうしました?

シンイチ:ホルムズ海峡に船が入れん。
海上保険がキャンセルじゃ。
プレミアではいかんということか?
こりゃ海上保険も本気で怒ったの。

白石:どうしたん?名探偵ホームズ?

ホルムズ海峡閉塞

シンイチ:あほう。ホルムズ海峡じゃ。

今、イランをアメリカが攻撃して、
報復で海峡をとおる船が無差別攻撃の
対象になっとるだろう?

白石:でもアメリカが一方的に勝って
いきよるんと違うん。問題なかろ?

アオイ:それがそうでもないです。

白石:そら正義はないわ。先進国にもそっぽ向かれたしのう。

シンイチ:違う。イランの南岸、
ペルシャ湾に狭い海峡がある。

それがホルムズ海峡じゃ。

ここをとおる船は攻撃すると
イランの革命防衛隊が宣言しとる。

白石:え?船をか?無差別に?

指導者がなければ混乱する国

アオイ:革命防衛隊はイランの体制維持派で
強硬な反米思想を持っています。被害が出てもアメリカに対しては屈する気はないです。

白石:そんなん言うたって見たど。
イランの人らがあの…なんか指導者が
弾圧しとったんじゃろ?
それで自由になったて。
喜んどる映像見たどワシ。

シンイチ:そういう人ばかりではない
と言うことよ。半々じゃろ。

アオイ:ただ、アメリカの都合よく
なる気はないと思われます。

白石:あれま。そうなんかい?
物事単純にはいかんのう?

アメリカの出口戦略のなさ

シンイチ:多分、攻撃したものの、
どうなったらホルムズ海峡が正常に
なるか、わかっとらんじゃろ。

国土も広い。砂漠や山岳地帯もあり
航空攻撃だけで降伏はせんだろう。

白石:ガーッと一気には無理?

アオイ:無理ですよね。
それに、問題は軍事面じゃないです。

白石:アメリカの海軍がおるんやけど?

シンイチ:関係ない。保険料が爆上がり、
大手は保険引受中止。3月5日からの。

白石:どういうこっちゃ?

保険非適用の怖さ

シンイチ:保険会社はな、100%の防御なんか
無理だと知っとるからよ。

白石:そらそうじゃ。…そうか。

シンイチ:契約にも書いてある。
戦争海域で何かあっても、免責。
その上、戦争リスク保険も引き受けん。

アオイ:海上輸送は、保険がなくては無理です。その保険も、再保険でリスク分散しないと。損害額が大きすぎるので。

シンイチ:白石よ、あの辺どう言う船がおる?

白石:バカにするな兄い。タンカーじゃろが。

シンイチ:ほうじゃ。じゃあ積荷は原油じゃのう?

白石:あっ…

シンイチ:それみい。
ワシが船主なら、そんな船
保険もかけずによう走らせられんわ。

白石:ん? あれ? やばいやんけ。

シンイチ:わかったか?

白石:待て待て兄い、そんな殺生な!

シンイチ:無理言うない。リスク計算できりゃキャンセルまでせんわい。

幅40キロと言っても浅瀬や暗礁が
多いんじゃ。

実際に通れるのは東向け西向け、それぞれ
幅3キロのエリアだけぞ?

白石:タンカーにとったら余裕ないの。

シンイチ:…タンカーの幅、60mあるんじゃ。ここ海の深さ、60mー100m。
沈没したら、物理的に通れん。

アオイ:スピード出ませんし
 ドローンを避けたりもできません。

白石:そりゃあのう。あいつら出て15ノットじゃ。時速に直しゃ30キロ弱。

でかい上に、ゆっくり直進しかでけん。
曲がれん止まれん、難儀な船ぞ、
タンカーって。

シンイチ:ほうじゃろうが。
なんぼトランプが安全だ大丈夫だ
言うたってお前。

アオイ:まあ通れないですね。
荷主も不可抗力(フォースマジュール)
宣言するしね。

シンイチ:おまけに、じゃ。

白石:まだあるんかい?

シンイチ:こっからが本番よ。保険会社が戦争リスクは引き受けん。

そこで、アメリカがその保証をすると言い出した。

アオイ:ああ、アメリカの国際開発金融公社…

白石:アメリカが?それならもう安心じゃのう?

シンイチ:保険も引き受けるし、海軍もガードするから航行できるそうじゃ。

すでに受付開始されて、申し込みが殺到しとる。

そういう表情に安心はない。

白石:…安心したらいかんらしいのう。

シンイチ:保険業界がリスク計算不可能と見切ったものを、どういう計算で保証するんかのう?料率の根拠は?

不思議な話やと思わんか?

白石:…

シンイチ:まあええわ。
保険を払うんはアメリカ政府で我々ではない。

白石:結局通れるん?

アオイ:それは分かりません。
無事原油を積んで出港し、帰りも無事、
その可能性だってあります。

シンイチ:ワシなら2、3隻は通す。
その後で攻撃する。

アオイ:船が沈没し、海洋汚染も起こす
かもしれない。

アオイの無表情さが冷酷に見える。

白石:しかし運ばんわけにもいかん。

シンイチ:そうよ。しかし無理にやらせて
結果海洋汚染が起こった。

誰が後始末するんかのう?
そもそも、タンカー沈んだら
半年やそこらは船体引き揚げに。

白石:かかるわのう。
…えげつないのう。

シンイチ:もひとつ、
モラルハザードの懸念がある。

こっからはワシの想像じゃ。
ええか、ボロのタンカー購入して、
単発で原油輸送契約取るんじゃ。

そういうとニタリと笑う。

白石:あ、兄い、顔が悪いど。

シンイチ:極悪な話するからじゃ。

ええか、ほんで船員も仕事にあぶれた奴
雇うんじゃ。船籍なんかパナマでも
リベリアでも税金かからんとこでええ。
検査もあるけど、まあなんとか通せ。

アオイ:その船でホルムズに向かう。
新しい船はそんな危険な任務に就かせません。

で、もし何かあったら。

白石:…アメリカに損害の支払いを求める。

シンイチ:その通りじゃ。
そりゃ確かに、海上輸送はそう言う仕組みよ。

しかしリスク評価があやふやなら、
初めからなんかあって欲しい船主
現れても不思議はないじゃろがい?

もっとも、今老朽タンカーでも使うぐらい
新造船が建造待ちになっとるけどの。

白石:兄い、考えることが悪どいぞ。
まるで海賊じゃい。

シンイチ:元々海運と海賊は親戚じゃ。
パイレーツオブカリビアンの世界に
戻ってしまっただけよ。

リスク管理あっての保険
保険あっての契約
契約あっての海上輸送。

その原則を踏みにじられたから
海上保険のグループがこんなに怒っとるんじゃ。

手打ちの目処がない戦争はアホの戦争ぞ。

アオイ:廃船寸前のタンカーが売買されている
情報もあります。船価が高騰してます。

シンイチ:ところでアオイ、白石。
ちょっと重要な相談があるんじゃが。

2人、顔を見合わせる。

アオイ:一応聞くだけ聞いてあげます。

シンイチ:ホルムズ海峡で、弁当屋やらんか?

白石:はぁ!?

シンイチ:ほれ、待たされとる船相手に。
巻きずしにお茶でも。売れるど。

アオイ:その私達の船に保険つくんですか?

シンイチ:いや、ないな。ダイジョブじゃ。

白石:今あれだけ真面目に。

シンイチ:真面目な顔5分続けたら
顔が持たん。

白石:まあ一人で行ってつかあさいや。
せっかくええ話しとったのに。

シンイチ:まあそんなもんよ。

いいなと思ったら応援しよう!

さとうしんいち@note よろしければ応援お願いいたします。いただいたチップはクリエイターとして更なる勉強に使わせていただきます。