【借金3000万男の記録】
第25話 貸す側になった僕
事業が軌道に乗り、収入も安定してくると、僕の生活には、以前とは比べ物にならないほどの余裕が生まれていました。
600万円の借金と必死に向き合っていた頃。一円単位で生活を切り詰め、友人付き合いすら断っていたあの日々が、嘘のようでした。
そんな中で、ある変化が、僕の中に生まれ始めていました。
周りに、お金に困っている人がいると、放っておけなくなったんです。
理由は、自分でもよく分かっていました。かつての自分と、目の前の相手が、重なって見えたからです。
600万円という数字を前に、途方に暮れていたあの頃。「早く楽になりたい」という焦りだけで、まっとうじゃない道に足を踏み入れかけたあの頃。誰かが、ほんの少しでも手を差し伸べてくれていたら。そんな思いが、ずっと心のどこかに残っていました。
だから、目の前で困っている知り合いや友人を見ると、つい手を貸してしまう。
「ちょっと厳しくて」
そう相談されると、深く考える前に、財布を開いていました。
「昔の自分を見ているようで、放っておけなかった」
これが、当時の僕の、正直な気持ちでした。美談のように聞こえるかもしれません。でも今振り返ると、そこには、もう一つの感情も混じっていたと思います。
「人に頼られる自分」への、満足感です。
かつて借金に苦しみ、裏の仕事に片足を突っ込み、離婚を経験し、孤独になった時期もあった僕が、今は逆に、誰かを助けられる立場にいる。その事実が、僕の中の何かを、心地よく満たしていました。
貸す金額は、最初は数万円程度でした。
「困った時はお互い様だから」
そう言って、深く考えずに貸していました。事業も順調で、収入もある。だから、少しくらい人に貸しても、生活が揺らぐことはない。そんな余裕が、僕の判断を、どんどん緩くしていきました。
一人に貸すと、不思議なもので、また別の誰かからも相談を受けるようになります。「あいつ、お金貸してくれるらしい」。そんな噂が、知らないうちに広がっていたのかもしれません。
彼女は、この頃から、少しずつ心配するようになっていました。
「大丈夫なの、それ」
「大丈夫だよ、ちゃんと返してくれるって言ってるし」
僕は、そう答えていました。でも正直、貸した相手の生活状況や返済能力を、細かく確認していたわけではありません。「困っているなら助けたい」という気持ちが先行し、冷静な判断は、後回しになっていました。
600万円という借金を、あれだけ苦労して完済した経験があったはずなのに。
お金の重み、返済の苦しさ、それを人一倍知っているはずの自分が、今度は逆の立場で、その重みを軽く扱ってしまっていた。この時の僕は、そのことに、まだ気づいていませんでした。
貸したお金の額は、少しずつ、しかし確実に、積み重なっていきました。
次回は、この「貸す側」としての僕が、その後どうなっていったのか、そして事業自体にも影響が及んでいく過程について書こうと思います。
