【借金3000万男の記録】
第10話 数字だけを追いかけた日々
営業成績が伸びていくにつれて、僕の中で、ある変化が起きていました。
周りが、見えなくなっていったんです。
同期や後輩の中には、成績が伸び悩んでいる人も少なくありませんでした。本来なら、先に結果を出せていた立場として、何かアドバイスできることがあったはずです。実際、「どうやったらもっと契約取れますか」と聞かれることも何度かありました。
でも、僕はまともに答えられませんでした。
自分がなぜうまくいっているのか、正直、言語化できていなかったんです。感覚でやっている部分が大きく、「なんとなく話が弾む」「なんとなく相手の反応がいい」。そんな曖昧な感覚だけで結果を出していたので、それを他人に伝えられる形にする余裕も、能力も、当時の僕にはありませんでした。
いや、正確に言えば、余裕がなかったというより、そこに意識が向いていなかったんだと思います。
僕の頭の中は、常に自分の数字でいっぱいでした。
今月の成績。来月の見込み。自分がどれだけ稼げるか。頭の中を占めていたのは、それだけでした。周りを気にかける余裕どころか、周りを気にかけるという発想自体が、ほとんどありませんでした。
今振り返れば、これは典型的な視野の狭さだったと思います。
でも当時は、それが当たり前だと思っていました。「自分のことで精一杯なんだから、仕方ない」。そう自分に言い訳をしながら、困っている同僚を横目に、自分の営業活動だけに集中し続けていました。
そしてもう一つ、この時期の僕には、大きな見落としがありました。
成績を伸ばすことに、意識が向きすぎていたんです。
600万円という借金のことは、もちろん頭のどこかにはありました。返済は続けていましたし、口座からは毎月きちんと引き落とされていました。でも、それは「淡々とこなす作業」になっていて、「借金をどう終わらせるか」という視点よりも、「もっと成績を伸ばすにはどうすればいいか」という視点の方が、はるかに強くなっていたんです。
成績を伸ばすこと自体が、いつの間にか目的になっていました。
借金を返すための手段だったはずの仕事が、いつの間にか、仕事そのものが目的にすり替わっていた。今振り返ると、そう感じます。数字が伸びる快感、認められる快感、そういったものに、僕は少しずつのめり込んでいきました。
もちろん、結果として収入が増えれば、返済にも回せる。その意味では、間違った方向ではなかったのかもしれません。
でも、「借金と向き合う」という当初の目的が、この時期、明らかに薄れていました。周りへの配慮も、借金への意識も、どちらも後回しにして、ただ自分の数字だけを追いかけ続けていた。
この視野の狭さが、この後、僕自身にどんな形で返ってくることになるのか。当時の僕は、まったく想像していませんでした。
次回は、この「数字だけを追いかけていた日々」の先に、僕が実際にどう変化していったのか、あるいはどんな出来事に直面することになったのかについて書こうと思います。
