【借金3000万男の記録】
第23話 「良い借金」という思い込み
開業資金について、僕はそれほど深く悩みませんでした。
必要な金額は、およそ100万円。
600万円という借金を完済したばかりの僕にとって、その数字は、正直、それほど大きなものには感じられませんでした。「あの600万円を返しきったんだから、100万円くらい何とかなる」。そんな軽い感覚があったことは、正直に認めます。
そして、この時の僕には、一つの思い込みがありました。
「稼ぐための借金は、良い借金だ」
生活のために切り詰めながら返し続けた600万円とは違う。事業を始めて、収入を生み出すための借金。だから、これは悪いものじゃない。むしろ、前向きな借金だ。そう自分に言い聞かせていました。
今振り返れば、この考え方自体は、間違っていないと思います。事業のための借入は、多くの経営者が当たり前に行うことです。ただ、当時の僕には、その言葉を都合よく使って、「借金」という行為そのものへの警戒心を、必要以上に緩めてしまっていた面があったと思います。
600万円を、あれだけ苦労して完済したばかりなのに。
その苦労の記憶さえも、「良い借金だから大丈夫」という一言で、簡単に脇に置いてしまっていたんです。
開業資金の借り先には、親を選びました。
正直、銀行や公的な融資制度を、きちちんと調べたり比較したりはしませんでした。親に頼めば、比較的スムーズに借りられる。難しい審査もいらない。そういう「手軽さ」が、この時の僕には魅力的に映っていました。
親に相談すると、多少の心配はされたものの、最終的には100万円を貸してくれることになりました。
「ちゃんと返しなさいよ」
その一言に、「もちろん」と、僕は軽く答えました。
家族からお金を借りるという行為に対して、この時の僕は、あまりにも楽観的でした。600万円を自力で返済しきったという自信、独立への高揚感、そして「稼ぐための借金だから大丈夫」という思い込み。それらが重なって、100万円という金額を借りることへの緊張感を、僕はほとんど持てていませんでした。
彼女は、この時も少し心配そうにしていました。
「本当に、その金額で足りるの?」
正直、僕自身、事業に必要な資金を、細かく綿密に計算していたわけではありませんでした。「だいたいこれくらいあれば」という、ざっくりとした見積もりでした。
でも当時の僕は、その心配の声さえも、「大丈夫、なんとかなる」の一言で、軽く受け流していました。
600万円という借金と、必死に向き合い続けた日々があったはずなのに。
その経験から学んだはずの、お金に対する慎重さ。それが、独立という高揚感の前では、驚くほど簡単に薄れていってしまう。この時の僕は、そのことに、まったく気づいていませんでした。
次回は、実際に開業してからの日々、そして事業がどう展開していったのかについて書こうと思います。
