【借金3000万男の記録】
第13話 挨拶から、もう一度
彼女の一言をきっかけに、僕は少しずつ、自分を見直そうとしていました。
でも、正直、何から手をつければいいのか分かりませんでした。
「人のことを考えられる自分に戻りたい」
そう思っても、いきなり後輩に的確なアドバイスができるわけでもないし、いきなり周りとの距離を縮められるわけでもありません。長い間、自分の数字だけを見て生きてきたんです。急に人間関係を立て直そうとしても、何をすればいいのか、正直見当がつきませんでした。
それでも、何もしないよりはマシだと思い、僕はまず、一番簡単なことから始めることにしました。
自分から、明るく挨拶をする。
それだけです。本当に、それだけでした。
大それたことは何もできない。でも、挨拶くらいなら、今の自分にもできる。そう思って、翌朝から実践してみることにしました。
最初は、正直ぎこちなかったです。
これまで、目も合わせず、会釈程度で済ませていた同僚に対して、自分から「おはようございます」と声をかける。たったそれだけのことなのに、妙に緊張しました。「今さら何だ」と思われないか、不自然に思われないか。そんな不安が、頭をよぎりました。
それでも、続けました。
朝、オフィスに入った瞬間、目が合った人には、自分から明るく声をかける。成績が良くない後輩にも、まずは挨拶だけはきちんとする。特別な会話をするわけではありません。ただ、「おはようございます」「お疲れ様です」。その一言を、以前よりも意識して、口にするようにしました。
不思議なもので、続けているうちに、少しずつ変化が出てきました。
最初は戸惑っていた同僚たちも、次第に自然に挨拶を返してくれるようになりました。中には、「最近、感じ変わったね」と声をかけてくれる人も出てきました。以前とは逆の意味で、「変わったね」と言われるようになったんです。
挨拶ひとつで、何かが劇的に変わったわけではありません。
後輩の成績がすぐに良くなったわけでも、職場の人間関係が一気に改善したわけでもありません。それでも、挨拶を通して、少しずつ会話が生まれるようになりました。「おはようございます」の後に、「最近どうですか」と一言添えられるようになり、そこから短いやり取りが生まれる。そんな小さな積み重ねが、少しずつ増えていきました。
正直、劇的な変化を期待していたわけではありません。
でも、この小さな習慣を続けているうちに、僕自身の中で、何かが少しずつ元に戻っていく感覚がありました。数字だけを見ていた頃には感じられなかった、「人と関わっている」という実感。それが、挨拶という小さな行動を通して、少しずつ戻ってきたんです。
彼女に言われた「前は人のことを考えられる人だった」という言葉。
その言葉に近づけたかどうかは分かりません。でも、少なくとも、そこに向かって、もう一度歩き出せた気がしました。
次回は、この小さな変化を積み重ねる中で、僕の営業成績や、周りとの関係、そして借金返済にどんな影響が出てきたのかについて書こうと思います。
