【借金3000万男の記録】
第21話 調子に乗り始めた僕
600万円を完済してから、僕の生活は、順調そのものでした。
仕事では、チームリーダーとして安定した成果を出し続けていました。プライベートでは、彼女との関係も穏やかに続き、子供との時間も、以前より当たり前のものになっていました。借金という重荷から解放され、心にも生活にも、余裕がありました。
正直に書きます。僕は、調子に乗りやすい性格です。
うまくいっている時は、とことん前向きになれる。逆に言えば、その勢いのまま、深く考えずに次の一歩を踏み出してしまうところがあります。20歳の頃、「早く楽になりたい」という焦りから良くない選択をしてしまったのも、ある意味この性格が関係していたのかもしれません。今回は、焦りではなく、順調さが、その調子の良さに火をつけました。
「このまま会社員を続けているだけでいいのか」
そんな考えが、頭の中に浮かぶようになったのは、この時期からでした。
営業として結果を出せている自負がありました。チームをまとめてきた経験もありました。借金を完済したことで、「自分はやればできる」という自信も、以前よりずっと強くなっていました。
会社の看板があるからこそ売れているのか、それとも自分自身の力で売れているのか。
そんなことを考え始めると、答えは決まって後者に傾いていきました。今思えば、かなり都合のいい考え方だったと思います。それでも当時の僕は、「自分の力を試してみたい」という気持ちを、抑えられなくなっていました。
独立。
その二文字が、僕の頭の中で、日に日に大きくなっていきました。
会社員としての安定した収入。積み上げてきた信頼。借金を完済したばかりの、まだ盤石とは言えない生活基盤。冷静に考えれば、リスクを取るタイミングとしては、決して万全とは言えませんでした。
でも、順調さがもたらす万能感は、そういった冷静な判断を、少しずつ鈍らせていきました。
「今の勢いなら、独立してもうまくいくはずだ」
彼女にも、それとなく独立への思いを話すようになりました。彼女は、僕の考えを頭ごなしに否定することはありませんでしたが、「本当に大丈夫なの?」と、心配そうな表情を見せることもありました。
その心配を、僕はどこかで軽く受け止めていました。
「大丈夫、ちゃんと考えてるから」
そう答えながらも、正直、具体的な準備や計画は、この時点ではまだ曖昧なものでした。ただ、独立という言葉の持つ響きと、それを実現できそうな自分への期待感だけが、先行していました。
600万円という借金と、必死に向き合い続けた日々。あの経験を乗り越えたからこそ、「自分はもっと大きなことができるはずだ」という思いが、この時期、急速に膨らんでいったんです。
この調子の良さが、この後、僕をどこへ導いていくことになるのか。
当時の僕は、まだ知りませんでした。
次回は、実際に独立を決断し、動き出していく過程について書こうと思います。
