【借金3000万男の記録】35
第35話 母の余命
借りては返す。その綱渡りのような日々を、僕は必死に続けていました。
正直、この頃の僕の頭の中は、お金のことでいっぱいでした。次の返済期日、次に頭を下げに行く相手、資金繰りの帳尻をどう合わせるか。それ以外のことを考える余裕は、ほとんど残っていませんでした。
そんな時でした。
母から、電話がありました。
母は、6年前から癌を患っていました。治療を続けながら、日常生活を送ってはいましたが、正直、僕は、借金のことで頭がいっぱいで、母の病気について、以前ほど深く気にかける余裕を失っていたと思います。
電話越しの母の声は、いつもと様子が違いました。
「ちょっと、調子が悪くて」
その一言をきっかけに、すぐに病院に向かうことになりました。そして、そのまま、緊急入院。
検査の結果を聞いた時、僕は、頭が真っ白になりました。
余命、1か月。
その言葉を聞いた瞬間のことを、正直、うまく言葉にできません。借金、事業、返済。それまで頭の中を埋め尽くしていたものが、一瞬で、すべて意味を失ったような感覚でした。
2000万円という借金は、頑張れば、いつか終わりが見えるかもしれない。友人知人への義理も、時間をかければ、いつか果たせるかもしれない。でも、母の命に残された時間は、もう、僕の努力ではどうにもならないものでした。
「早く楽になりたい」「早く終わらせたい」
これまで、お金のことで、何度も抱いてきた焦り。でも今、目の前にある焦りは、まったく種類の違うものでした。
一日でも長く、一分でも長く、一緒にいたい。
そんな、当たり前で、でもどうすることもできない願いだけが、頭の中を占めるようになりました。
正直、この後のことは、あまり詳しくは書けません。ただ、母と過ごした、残された時間のことは、生涯忘れることはないと思います。
彼女は、この時期、ずっとそばにいてくれました。病院への付き添い、僕の代わりに動いてくれること、そして何より、言葉にならない僕の気持ちに、静かに寄り添ってくれたこと。借金の話も、事業の話も、この時期、彼女は一切口にしませんでした。ただ、隣にいてくれました。
借金2000万円という現実は、消えてなくなったわけではありません。それでも、この時期だけは、お金のことよりも、目の前の母との時間の方が、僕にとって、比べ物にならないほど大切なものになっていました。
この記録は、借金についての記録として書き始めました。でも、この出来事だけは、お金の話とは切り離して、書き残しておきたいと思います。
次回は、この時期のことを、もう少しだけ、書かせてください。
