【借金3000万男の記録】
第27話 本業を蝕んでいくもの
貸したお金が返ってこない。その状況は、時間が経つにつれて、悪化の一途をたどっていきました。
一人、二人だった「返ってこない相手」は、気づけば、もっと多くの人数に膨らんでいました。誰か一人に貸したという話が広まると、また別の誰かが「実は自分も」と相談してくる。断りきれずに貸し、そしてまた返ってこない。その繰り返しでした。
そして、この頃から、僕の時間の使い方が、明らかにおかしくなっていきました。
本来、僕がやるべきことは、コーティングという本業でした。お客さんの車と向き合い、技術を磨き、事業を伸ばしていく。それが、独立した僕の、本来の仕事のはずでした。
でも、気づけば、僕の頭の中も、僕の時間も、「どうやってお金を返してもらうか」ということに、大部分を占められるようになっていました。
連絡が取れない相手に、何度も電話をかける。
「今度こそ」という約束を、信じては裏切られる。
返済について話すために、わざわざ時間を作って会いに行く。
こうした時間は、当然、お金を生みません。でも、貸した金額を思うと、放っておくこともできない。結果として、仕事に使うべき時間が、どんどん削られていきました。
「今日は、〇〇さんに会って、返済の話をしなきゃ」
そんな予定が、施工の予定と同じくらい、いや、それ以上に、僕のスケジュールを埋めていく日も出てきました。
本末転倒だと、頭では分かっていました。
事業のために独立したはずなのに、事業に使う時間よりも、貸したお金を回収するための時間の方が多くなっている。これでは、何のために独立したのか、分からなくなってきます。
それでも、僕は止まれませんでした。
「ここで諦めたら、今まで貸した分が、本当にゼロになる」
そんな思いが、僕を突き動かしていました。一件でも多く回収したい。その一心で、本業そっちのけで、返済交渉に時間を費やす日々が続きました。
お客さんからの予約を、断ったり、後回しにしたりすることも増えていきました。
「また今度でいいですか」
そう伝えるたびに、罪悪感がありました。せっかく僕を信頼して頼ってくれるお客さんを、貸したお金の回収という、本来関係のないことのために、後回しにしている。分かってはいるのに、目の前の「返してもらわなければ」という焦りの方が、僕の判断を支配していました。
当然、事業の売上には、少しずつ影響が出始めていました。
新規のお客さんへの対応も、以前ほど丁寧にできなくなっていました。せっかくチラシやmixiで築いてきた新規開拓の流れも、僕自身の時間不足によって、勢いを失いかけていました。
彼女は、この頃、はっきりと言うようになっていました。
「仕事、ちゃんとできてる? 最近、貸したお金の話ばかりじゃない」
図星でした。でも、素直に認めることが、この時の僕にはできませんでした。
「大丈夫、ちゃんと両方やってるから」
そう言いながらも、内心では、自分でも歯止めが利かなくなっていることに、気づき始めていました。
600万円という借金と向き合い、完済までこぎつけた、あの経験。あの時培ったはずの「お金と向き合う力」は、この頃の僕からは、すっかり抜け落ちていました。
次回は、この状況がどこまで悪化し、事業や生活全体に、どんな決定的な影響を及ぼしていくことになったのかについて書こうと思います。
