【借金3000万男の記録】
第14話 個人からチームへ
挨拶を続けるようになってから、僕の中で、少しずつ変化が生まれていました。
朝の挨拶をきっかけに、ちょっとした会話が増える。会話が増えると、自然と相手の状況も耳に入ってくるようになります。「最近、なかなか契約が取れなくて」「どう話せばいいのか分からなくて」。そんな声を、以前よりも聞くようになりました。
以前の僕なら、聞いても聞き流していたと思います。
でも、この頃の僕は違いました。
聞いたからには、何かできることはないか。そう考えるようになっていたんです。自分の感覚を、できるだけ言葉にしてみる。「こういう時は、こう聞いてみるといいかもしれない」「相手が黙った時は、無理に話を続けなくてもいい」。うまく言語化できないながらも、思いつく限りのことを、後輩や同僚に伝えるようになりました。
正直、自分の営業活動に使う時間は、以前より減りました。
その分、僕自身の成績は、少し落ちました。
ここは、正直に書いておきたいところです。人に時間を使う分、自分の数字を追いかける時間は削られます。以前の僕なら、この状況に苛立っていたと思います。「自分の成績が落ちるくらいなら、余計なことはしない方がいい」。そう考えていたはずです。
でも、この時の僕は、不思議とそれほど焦りませんでした。
自分の成績は落ちても、周りの成績が上がっていくのを見るのが、素直に嬉しかったからです。
これまで伸び悩んでいた後輩が、契約を取れた時。今まで会話が続かなかった同僚が、お客さんと自然に話せるようになった時。その報告を聞くたびに、自分の数字が伸びた時とは、また違う種類の満足感がありました。
そして、気づけば、チーム全体の成績が、目に見えて上がっていました。
一人一人の数字を足し合わせた時、以前は僕一人が突出している状態でした。でも今は、僕の数字は少し落ちたものの、チーム全体としては、以前よりもずっと高い成績を出せるようになっていたんです。
この変化は、僕にとって、ある意味では発見でした。
数字だけを追いかけていた頃、僕は「自分がどれだけ稼げるか」しか見ていませんでした。でも、周りに目を向けるようになってから分かったのは、自分一人の数字を伸ばすことよりも、周りの底上げに関わる方が、結果として大きな数字を生み出せる場合があるということでした。
上司からの評価も、少しずつ変わっていきました。
個人の成績だけを見ていた頃とは違う形で、「チームをまとめる存在」として、見られるようになっていったんです。
借金の方も、この時期、確実に進んでいました。
自分の成績は落ちたとはいえ、生活を切り詰める習慣は変わらず続けていましたし、収入自体は安定していました。振り返ってみると、この頃には、600万円のうち、200万円ほどを返済できていました。かつて振り出しに戻った時のことを思えば、また同じ200万円という数字ですが、今回は違う意味を持っていました。数字を追うことだけに必死だったあの頃とは違う気持ちで、この200万円と向き合えている自分がいました。
数字だけを追っていた頃の僕には、絶対に見えなかった景色でした。
次回は、このチームでの経験を経て、僕自身がどんな立場や役割を任されるようになっていったのか、そして返済の道のりがどう続いていったのかについて書こうと思います。
