【借金3000万男の記録】
第20話 完済
穏やかな日々は、そのまま三年続きました。
彼女との関係は変わらず、子供との時間も、少しずつ安定していきました。仕事では、チームリーダーとしての立場にも慣れ、無理のないペースで、それでも着実に、成績と収入を積み重ねていきました。
派手な出来事があったわけではありません。
むしろ、この三年間を一言で表すなら、「淡々と」という言葉が一番近いと思います。裏の仕事で心をすり減らしていた頃とも、数字だけを追いかけて孤独になっていた頃とも違う。穏やかに、でも確実に、日々を積み重ねていく三年間でした。
そして、ある日。
通帳の残高と、返済額を照らし合わせていた時、僕はふと気づきました。
残りの金額が、ゼロになっていたんです。
600万円。
20歳の頃、途方に暮れながら見つめていた、あの数字。まっとうとは言えない仕事に手を出しかけたのも、この数字から逃れたい一心でした。振り出しに戻った日もありました。数字だけを追いかけて、大切なものを見失いかけた時期もありました。
その600万円を、僕はついに、完済したんです。
正直、実感が湧きませんでした。
何年も、当たり前のように頭の片隅にあった数字が、ある日を境に、存在しなくなる。長年背負っていた重みが消えたはずなのに、しばらくの間、体がその「軽さ」に慣れませんでした。
その日の夜、彼女に報告しました。
「完済したよ」
彼女は、僕以上に喜んでくれました。涙ぐみながら、「本当によく頑張ったね」と言ってくれた彼女の顔を、今でもはっきり覚えています。交際費を返済に回そうと言ってくれた彼女がいなければ、ここまでたどり着けたかどうか、正直分かりません。
子供にも、簡単な言葉で伝えました。子供がどこまで理解していたかは分かりませんが、「よかったね、お父さん」と言ってくれたことが、何より嬉しかったです。
20歳の頃の僕に、もし今の状況を伝えられるなら、きっと信じないと思います。
裏の仕事に片足を突っ込み、離婚を経験し、子供と会えない日々を過ごし、数字だけを追いかけて孤独になり、それでも挨拶から少しずつ人との関わりを取り戻し、彼女と出会い、家族のような時間を築きながら、ようやくたどり着いた完済。
まっすぐな道のりでは、決してありませんでした。
遠回りをして、間違った選択もして、大切なものを見失いかけたこともありました。それでも、諦めずに向き合い続けたからこそ、この日を迎えられたんだと思います。
600万円の借金は、完済しました。
でも、この記録のタイトルは「借金3000万男の記録」です。
600万円を完済したこの先に、僕はさらに大きな金額と向き合っていくことになります。次回からは、その経緯について、書いていこうと思おうと思います。
