【借金3000万男の記録】
第26話 貸しているのに、借りている感覚
最初のうちは、良かったんです。
貸したお金は、きちんと返ってきていました。「助かったよ、ありがとう」。そう言われるたびに、僕は素直に嬉しかった。人の役に立てている実感。かつて自分が欲しかった「差し伸べられる手」を、今度は自分が差し出せている。そんな感覚に、僕は少しずつのめり込んでいきました。
でも、ある時期から、状況が変わり始めました。
返ってこないお金が、増えていったんです。
最初は、「ちょっと待って」の一言でした。「今月は厳しいから、来月には」。そう言われれば、待つしかありません。相手も困っているんだろうと、その言葉を信じていました。
でも、来月になっても、その次の月になっても、返ってこない。
催促するのも、正直、気が引けました。相手も、僕にとって大切な知り合いや友人です。お金の話でギクシャクするのは避けたい。そんな遠慮が、僕の口を重くしていました。
気づけば、貸したお金の中に、事実上「返ってこないもの」が、少しずつ積み重なっていました。
不思議な感覚でした。
僕は、確かに貸している側のはずでした。困っている人を助ける、余裕のある立場のはずでした。それなのに、返ってこないお金の分を、自分の生活や事業の中で、どうにか埋め合わせなければいけない。
貸しているのに、まるで自分が借金をしているような感覚。
この感覚は、正直、うまく言葉にするのが難しいものでした。誰かに借りているわけではありません。契約書があるわけでもありません。それでも、確実に、自分のお金が、目減りしている。しかも、それを取り戻す手段は、自分が働くことでしか埋め合わせられない。
「仕事で取り戻せばいい」
そう考えるようになったのは、この頃からでした。
返ってこない分を、事業の売上で補う。そう考えれば、精神的には、多少楽になりました。「貸したお金が返ってこない」という事実を直視するより、「もっと稼げばいい」という前向きな方向に、意識をすり替えていたんだと思います。
でも、これは根本的な解決には、まったくなっていませんでした。
貸した分は、戻ってこない。それを補うために、以前よりも必死に働く。表面上は、事業も収入も、順調に見えていました。でも、その裏側では、目に見えない形で、お金がじわじわと流出し続けていたんです。
600万円という借金を、あれだけ苦労して完済した経験があったのに。
お金というものが、どれだけ人を追い詰めるか、身をもって知っていたはずなのに。今度は、貸す側という違う形で、僕は再び、お金に振り回され始めていました。
彼女の心配そうな表情は、この頃、さらに増えていました。
「本当に、大丈夫なの」
僕は、その都度、「大丈夫、仕事で取り戻すから」と答えていました。でも、正直、心のどこかで、薄々気づき始めていたと思います。
このままのやり方を続けていたら、いずれ本当にまずいことになるかもしれない、と。
それでも、この時の僕は、まだ立ち止まることができませんでした。
次回は、この「貸したお金が返ってこない」状況が、その後どう膨らんでいったのか、そして事業や生活全体に、どんな影響を及ぼしていったのかについて書こうと思います。
