【借金3000万男の記録】39
第39話 悲しみに付け込まれて
母を見送ってから、まだ数日しか経っていませんでした。
心の整理などつくはずもなく、僕はまだ、悲しみの中にいました。そんな時期に、僕に近づいてきた人たちがいました。
「大変やったやろ」「仕事もできてなかったやろ」
そう言って、心配するような素振りで話しかけてくる人たち。最初は、純粋に僕を気遣ってくれているんだと思っていました。母を亡くしたばかりの僕を、労ってくれているんだと。
でも、彼らの本当の目的は、別のところにありました。
母の遺産が入ると、勘違いしていたんです。
そして、その勘違いに便乗して、「こんな仕事があるよ」「一緒にやらないか」と、助けるフリをしながら、僕に近づいてきました。
正直に書きます。この中には、兄弟もいました。仕事の取引先の人もいました。
血の繋がった家族。仕事上で信頼関係を築いてきたはずの相手。そういう人たちの中にも、僕の悲しみと、勘違いした遺産の話を利用しようとする人たちがいたんです。
今振り返れば、いくつもおかしな点があったはずです。話がうますぎたこと。急に親身になってきたタイミング。詳細を詰めようとすると、どこか曖昧になる説明。冷静に考えれば、疑うべき点は、いくつもありました。
でも、当時の僕には、冷静に考える力が、残っていませんでした。
母を失った悲しみ、2000万円という借金の重み、事業の資金繰りへの焦り。そういったものが積み重なって、僕の判断力は、正直、機能していない状態だったんだと思います。
そんな中で差し出された、「助けるフリ」の話。
普段の僕であれば、疑ってかかれたかもしれません。でも、あの時期の僕は、藁にもすがりたい気持ちでいました。誰かが手を差し伸べてくれることに、単純に、すがってしまったんです。
まんまと、騙されました。
結果として、僕はさらに、1000万円という金額を、失うことになりました。
冷静さを失った状態で判断すること、そして、悲しみの中にいる時ほど、人は隙ができるということ。この出来事は、僕に、その現実を、痛いほど突きつけました。
血の繋がりがあっても、信頼していた相手であっても、状況によっては、平気で人を利用しようとする人がいる。これは、これまでの人生の中でも、一番、人間不信になりかけた出来事だったかもしれません。
2000万円だった借金は、この一件で、3000万円という金額に膨れ上がりました。
「借金3000万男の記録」
このタイトルに込めていた金額に、僕はついに、たどり着いてしまったんです。
600万円から始まった借金人生。振り出しに戻り、離婚を経験し、それでも積み上げてきたはずの日々。事業での失敗、母の死、そして、その悲しみにまで付け込まれた末に、たどり着いた3000万円という数字。
正直、この時の僕の心境は、言葉にするのが難しいです。絶望とも、怒りとも、諦めとも違う、もっと複雑な感情でした。
次回は、この3000万円という現実と、僕がどう向き合っていくことになったのか、そして、ここからどう立ち直っていったのかについて、書いていこうと思います。
