【借金3000万男の記録】
第28話 手を広げすぎた僕
貸したお金が返ってこない。その穴を埋めるように、僕は焦っていました。
コーティングの売上だけでは、正直、追いつかない感覚がありました。回収できない金額が積み重なっていく中で、「もっと稼がなければ」という焦りが、日に日に強くなっていったんです。
そんな時、頭に浮かんだのが、中古車販売でした。
コーティング屋を営む中で、車好きのお客さんとの繋がりは、たくさんありました。「いい出物があったら教えてよ」「そろそろ乗り換えたいんだよね」。そんな会話を、日常的に交わしていたんです。
「これも、いけるんじゃないか」
車の知識には、それなりに自信がありました。16歳からガソリンスタンドで働き、コーティングを通じて数え切れないほどの車を見てきています。お客さんとの人脈もある。だったら、コーティングだけでなく、車の売買にも手を広げれば、もっと稼げるんじゃないか。
そう考えて、僕は中古車販売にも、少しずつ手を出し始めました。
でも、コーティングと中古車販売は、まったく別の世界でした。
コーティングは、技術と丁寧さが評価される仕事です。目の前の一台に、時間をかけてじっくり向き合う。それが、僕の得意なスタイルでした。
一方、中古車販売は、まったく違う勝負でした。
仕入れの目利き、相場観、書類や手続きの知識、販売のタイミング。どれも、コーティングの技術とは、まったく別の専門性が求められる世界だったんです。
正直、僕は舐めていました。
「車に詳しいから、なんとかなるだろう」
そんな甘い考えで飛び込んだ結果、思わぬところで、つまずくことになりました。仕入れた車が、思ったほどの値段で売れない。相場を見誤って、想定より安く手放さざるを得ない。慣れない書類対応に、余計な時間を取られる。
コーティングという本業だけでも、貸したお金の回収に時間を取られて、余裕がなくなっていたところに、さらに不慣れな中古車販売という業務が加わったんです。
一つ一つの仕事は、器用にこなしているつもりでした。でも、実際には、どれも中途半端になっていたんだと思います。
コーティングの仕事は、以前ほど丁寧に向き合えなくなっていました。中古車販売は、素人同然の状態で始めたため、当然、思うようにいきません。そして、返済交渉に費やす時間も、相変わらず減っていませんでした。
三つのことを、同時に、しかもどれも中途半端に抱えている。
そんな状態が、この頃の僕の実態でした。
彼女は、この状況を見て、はっきりと心配を口にするようになっていました。
「手を広げすぎじゃない? 一回、ちゃんと整理した方がいいんじゃない」
その言葉は、正しかったと思います。でも当時の僕は、「今、立ち止まったら、もっと苦しくなる」という焦りの方が強く、彼女の言葉を、素直に受け止めることができませんでした。
「大丈夫、なんとかなるから」
その一言で、彼女の心配を、また軽く受け流していました。
600万円の借金を完済した時に得たはずの自信。それが、この頃には、根拠のない万能感へと、少しずつ姿を変えていたのかもしれません。
「自分なら、何とかできる」
その思い込みだけを頼りに、僕は、慣れない中古車販売という、新たな不安定要素を抱えたまま、突き進んでいくことになります。
次回は、この中古車販売が、実際にどんな結果を招いていったのか、そして事業全体にどんな影響を及ぼしていったのかについて書こうと思います。
