ラップにメッセージ性など要らぬのだ!刻んで刻んで切って貼って。Prefuse73のボーカルチョップ革命。
「ボーカルチョップ(Vocal Chops)」とは、ボーカルの音源を細かく切り刻んで、それらを再配置して全く新しいリズムやメロディを再構築するサウンドクリエイトの手法である。
このボーカルチョップのパイオニアとして語られているのがアトランタ出身のギレルモ・スコット・ヘレン(以下ギレルモ)であり、彼が2001年にプレフューズ73(Prefuse 73)名義でリリースした1stアルバム『Vocal Studies + Uprock Narratives 』がその先駆的傑作として知られている。
Vocal Studies + Uprock Narratives(2001) / Prefuse 73
Hot Winter's Day(2001) / Prefuse 73
Point To B(2001) / Prefuse 73
Black List(2001) / Prefuse 73
MPCの普及以降、ヒップホップ界隈において「チョップ(Chops、音源を細かく切り貼りする)」という概念と方法論自体はもちろんあまねく存在したが、「ラップ部分(ボーカル)にチョップを施す」というのは暗黙の禁じ手だった。というのもそれは「ラップのメッセージ性を破壊する」行為だったからである。
ギレルモ自身の「ヒップホップのエゴをぶっ潰す」という大義のもと躊躇も遠慮もなくボーカルチョップを多用し、かつサウンド面でもグリッチホップ(Glitch Hop)の嚆矢として語られる本アルバムは、「全く新しいエレクトロヒップホップ」「アングラヒップホップの新たな地平」としてたちまち全世界にフォロワーを生み出すことになった。
フューチャリングしているラッパー陣もMFドゥーム、エイソップ・ロック(A$AP Rockyじゃないよ)にドーズ・ワンと、USオルタナ/アングラヒップホップの見本市みたいな並びである。
よりヒップホップアプローチを強めた2003年リリースの2ndアルバム『One Word Extinguisher』も1st同様、エレクトロニカとヒップホップをシームレスに融合した大傑作として評価されている。
One Word Extinguisher(2003)/ Prefuse 73
The End of Biters - International(2003) / Prefuse 73
Plastic(2003) / Prefuse 73
プレフューズ73もといギレルモ・スコット・ヘレンは、IDM専門だったWarp Recordsのヒップホップ部門の信用度を底上げどころか格上げした功労者であり、約20年以上前に今日のグリッチホップおよびフューチャーベースの方向性を予見したレジェンドである。トレンディに言えば「フライング・ロータスの祖先」とも形容できる。
しかしながら、作品毎に音楽性をよりアブストラクトに振り切っていく本人の奇才っぷりも災いして、前作サウンドのブラッシュアップ程度を期待する音楽リスナーたちはリリースの度に彼から置いてけぼりを食らった感があったのも事実である。
3rdアルバム『Surrounded By Silence(2005)』以降、ライトな音楽ファンからの支持という意味で、プレフューズ73のネームバリューは徐々に下火になっていく。
そもそもプレフューズ73のサウンドは当初から「ヒップホップファンには難解過ぎる」し、「エレクトロニカファンにはビートが強過ぎる」という難しいポジショニング取りをしていた。
今日では主要な音楽メディアにおいて「Prefuse 73」の名前を見かける機会は極端に減っている。
だがその上で、ギレルモは現在もバリバリ音楽活動を続けているし、フラッと新譜のMVなんかを覗いてみると、アーティストとして地肩の凄まじさには今も変わらず圧倒されるし、現在進行形で一定層の熱狂的な支持があるのも頷ける。
「多くの人の感性が追いついていないだけで、たぶん何かの拍子にまた彼は大きく語られるんだろう」と思わせるクリエイティヴィティで、プレフューズ73は2026年の今も、メインストリームの音楽シーンの価値観からこぼれ落ちた音楽リスナーたちを待ち構えてくれている。
Complete Rejection(2025) / Prefuse 73
Lion Chorus(2024) / Prefuse 73
これ50年後じゃないとみんな追いつかないよ。
2073年ぐらいのフィルムノワールのサントラみたい。
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