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ダンスフロアでは流れないダンスミュージック。 暴走ドラムマシンとジャムセッションするベーシストSquarepusher。

私には音楽リスナーとしての師匠がいる。

中学の同級生の清水君(仮名)。

高校時代の清水君はレディオヘッド狂いで、とにかく色んな音楽に詳しかった。ヌジャベスもフィッシュマンズもマッシヴ・アタックも、清水君の布教によって私はその存在を知った。
ちなみに清水君は、およそトム・ヨークの名前が口から出てきそうに無いガチムチのラガーマンだった。生傷だらけで花園にも出場した。
昔からギャップが魅力の男、いや漢である。

高校を卒業したかしないかぐらいの暇を持て余していた時期に、何気なく清水君が勧めてきた『Ultravisitor(2004)』を聴いて衝撃を受けた。

何だこのカッコいい音楽は。

ロックじゃない。
クラブミュージック?そうなの?

私は即座に同じCDをタワレコで購入した。

そして当時夢中になっていたマーズ・ヴォルタの『De-Loused in the Comatorium(2003)』のCDを棚の奥にしまう羽目になった。
もちろんそれはそれで素晴らしいアルバムだったのだが。


スクエアプッシャー(Squarepusher)ことトーマス・ジェンキンソン(以下トム)は、1975年にイギリスのエセックス州チェルムスフォードに生まれる。

12歳の時に学校の上級生たちが組んでいたスラッシュメタルバンドにベーシストとして加入し、地元のギグやレコーディングに参加。
若き日のトムはDTM全般に偏見を持っていた生粋のバンド少年だったが、16歳の時に『LFO(1990)』を聴いて衝撃を受け、テクノやアシッドハウスなどのエレクトロミュージックにも関心を持つようになる。

チェルシー・カレッジ・オブ・アーツの美術学部に入学し、学生ローンを投げ打ってAkaiのサンプラー、ドラムマシン、ミキサーといった中古の機材一式を揃え、本格的に楽曲制作を始める。

スクエアプッシャー名義での初作品は1995年にリリースされた『CONUMBER E:P』で、トム自身がレコード屋を回って売り込んだが、とりわけドランムンベース系専門ショップの店員たちからは「サウンドが激し過ぎる」と軒並み不評だったという。

しかしながら本名を含む様々な名義でのリリース、および企画コンピ盤への楽曲提供といった精力的な活動によってジワジワとその評判が広がり、トムとの契約はNinja Tune、Warp、Rephlex、R&Sといった錚々たる名門レーベルによる争奪戦となった。

トムは、いち早く自身の才能を見出してくれた恩人であり、また彼自身も尊敬してやまないエイフェックス・ツイン主宰のRephlex recordsと短期契約を交わし、1996年にデビューアルバム『Feed Me Weird Things』をリリース。UKダンスアルバムチャートで10位を記録する大ヒットとなる。
ちなみに同アルバムは制作に際して1から作られた作品ではなく、トムが録りためていた初期楽曲をエイフェックス・ツインが選曲した企画盤である。

以降はWarp Recordsと長期契約を結び、2000年代を通じて話題作を次々とリリース。世界中のメディアや批評家から絶賛され、エイフェックス・ツインやオウテカと並ぶWarpの看板アーティスト、および同時代を代表するエレクトロアーティストとしてその名が知れ渡ることとなる。


Theme From Ernest Borgnine(1996)/ Squarepusher


A Journey To Reedham(7am Mix)(1997)/ Squarepusher


Massif(1997)/ Squarepusher


Ultravisitor(2004)/ Squarepusher


Iambic 9 Poetry(2004)/ Squarepusher


スクエアプッシャーは、輪郭が消失するほどの間隔で打ち込まれるプログラムビートを特徴とする「ドリルンベース」サウンドの先駆者でありながら、同時にジャコ・パストリアス直径の凄腕ベーシストとしても名高い。

人力のドラムフィルやブラストでは到底追いつかないほど複雑で高速なドラムマシンビートに、アナログシンセのサンプルと自身の演奏する生音ベースを乗せるという折衷スタイルは、無機的なダンスミュージックに有機性と不確定性をもたらす試みであり、「スクエアプッシャー」というのは単なるアーティスト名ではなく「暴走するドラムマシンとジャムセッションする超絶技巧ベーシスト」という実験的なプロジェクトだった。

スクエアプッシャーはエレクトロニカ当初の「電子音楽をダンスフロアから引き剥がす」という大義を全うし、生楽器とのケミストリーによって電子音楽の地平を拡張した功労者である。

ドラスティックな楽曲展開も従来のダンスミュージックの枠組みから幾分逸脱しており、どちらかと言えばジャズやフュージョン、あるいはポストロックのアプローチに近い。
そういった点でスクエアプッシャーのエレクトロサウンドは同時代のオルタナティブロックシーンと親和し、「踊る」よりも「聴く」テクノミュージックとして、クラバー達よりもロックリスナー達から熱い支持を受けることとなった。

スクエアプッシャーを含むルーク・ヴァイバート、μ-ZiqといったRephlex recordsデビュー組は、総大将エイフェックス・ツインの出身地からその名を取って「コーンウォール一派」と称され、イギリスのダンスミュージックの潮流として一時代を築いた。

スクエアプッシャーの日本国内での人気っぷりはエイフェックス・ツインよりも断然上だという体感があって、それはメロディの美しさが際立っているからである。
ベースをネックの最上段まで使って独特の重低音掛かった倍音で奏でられるスクエアプッシャーのメランコリズムは、英国産とは思えないほど日本の音楽リスナーのツボをおさえていて、ベーシスト化した久石譲かの如く叙情の琴線に触れる。

狂気的なラディカリズムと哀愁ただよう繊細さが融合したスクエアプッシャーの音楽は、あらゆる困難に立ち向かう人々の心をたぎらせるアンセムであり、快楽で満ち満ちたダンスフロアとは別の場所で鳴り続けるダンスミュージックなのである。

Every Day I Love(2004)/ Squarepusher


Squarepusher Theme (1996)/ Squarepusher


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