わたしにとっての自由をくれた人
私はペットショップで暮らしている。
2か月前に来てからずっと夢見ているのは、
やさしい飼い主さんの膝の上で、寝落ちするまで撫でてもらうことだ。
でもなかなか夢は叶わない。
狭いケージの中では運動不足になる。
ぐるぐる走り回れないから、右に行ったり、左に行ったりを繰り返している。
すると隣のケージの先輩うさぎに怒られた。
「ちょっと!ばたばたうるさいわねー静かにしなさいよ!」
「す、すいません」
「まったく、そんなにアピールしても飼い主なんか来ないわよ!」
「え・・・はい。」
「私なんて、最初こそ期待していたけど、もうあきらめたわ。
もう1年もここに住んでいるのよ!」
「1年も・・・」
「そうよ。期待するだけ無駄よ。おとなしく端っこで丸まってなさいよ!」
「は、はい。」
先輩うさぎはアドバイスした通り、端っこに丸まってふて寝をし始めた。
そうなんだ・・・
飼い主さんなんて来ないんだ。
このままずっとこの狭いケージの中で、一生暮らすのかな・・・
不安と絶望の中でその場でうずくまった。
その時、
目の前に小さな男の子とお母さんが楽しそうにやってきた。
「かわいい~うさちゃんだ~」
「本当、かわいいわね~」
「ねえママ飼いたい。飼いたい。飼いたい~」
「だめよ。うちにはシロがいるでしょ!」
「うさちゃんも飼いたい~」
「だ~め。お菓子買ってあげるから、あっち行こう。」
「わーい。お菓子だ~やった~」
小さい男の子はあっさりと諦め、お母さんとスーパーへ向かった。
その後ろ姿を眺めながら、お菓子に負けた敗北感に打ちひしがれていた。
やっぱり、先輩うさぎが言ったことは本当なんだ。
だれも私を迎えになんかこない。
その日は食欲もなく、ケージの端っこで丸まって長い夜を過ごした。
このペットショップではうさぎのコーナーの横に鳥さんコーナーもある。
ピーピー、ギャーギャーと結構騒がしい。
朝寝坊なんてできないほどだ。
これと言ってやることもない1日が始まった。
ペレットを食べた後は牧草をたくさん食べる。
牧草は別においしくもないけど、これを食べないとうんちがでない。
それはうさぎにとって一大事だ。
すぐ具合が悪くなってしまう。
だから今日も暇さえあれば食べている。
お昼寝しようか悩んでいる時、前から女の人がやってきた。
後ろから男の人もついてきた。
私の目の前で立ち止まり、しゃがみこんだ。
「かわいい~」
私は必死で右に行ったり、左に行ったりアピールした。
私を連れて行って。
いい子にするから。
その人は優しいまなざしで言った。
「男の子かな・・女の子かな・・・」
そして指先を私の鼻先に近づけた。
クンクン・・・優しいおかあさんの香りがした。
その人は店員さんに話しかけた。
「すいません、抱っこしてもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
店員さんはそう言って、私を抱き上げ、その人の膝にのせてくれた。
「かわいい~小さいね~うちに来る?」
行く。行く。行くに決まってる。
嬉しさのあまり嬉ションしてしまった。
あ~こんなことしたら嫌われちゃうよー
「あーおしっこしちゃったね。」
店員さんが代わりに謝ってくれた。
「すいません、いま拭くものをお持ちしますね。」
「ありがとうございます。全然大丈夫ですよ~
嬉しかったのかな・・ふふ」
そう言って、怒るどころか優しく撫ででくれた。
なんて優しい人なんだ。
どうかお家に連れて行ってほしい。
「パパ、飼っていいよね?可愛すぎるでしょ?」
「ああ、いいよ。」
やった~男の人は不愛想だったが、OKしてくれた。
これでこの優しい飼い主さんに可愛がってもらえる。
やっと飼い主さんのお家に着いた。
「今日からよろしくね。私がママですよ~」
ママ?
私のママなんだ・・・
不安と絶望の中で、ケージの端っこで丸まって過ごした長い夜。
先輩うさぎに夢を見るなと言われて、涙した日々。
でもそんな日々ともお別れだ。
私には優しいママができた。
ママたちが考えてつけてくれた名前はポムだった。
いい名前だ。
私の為に家族であーだこーだと言って決めたのだ。
ママは毎朝眠そうな顔で、それでも一番最初に私の部屋へ来る。
「おはよう、ポムちゃん」
その声を聞くと、私は思わずケージの中を飛び跳ねる。
私の部屋はママの部屋より大きい。
いつでも部屋んぽできるように、広い部屋にしてくれたのだ。
ごはんの時間になるとママがやってくる。
「ポムちゃ~ん、ごはんだよ~」
そう言ってケージを開けてくれる。
私は嬉しさのあまりママの足元をくるくる回る。
おいしいごはんを食べた後はお部屋のチェックだ。
クンクンクン・・・
隅々まで探検し、お部屋チェックをし、ママが買ってくれたトンネルで遊んでみる。
「ポムちゃ~ん、おいでよ~」
あまりにもお部屋チェックが長いと、私と遊びたいママが待ちかねて呼ぶ。
お待たせ~
ママのそばで足を伸ばす。
優しく撫でてくれる。
「ポムちゃん、もっと自由に広いお外で走り回りたいよね?」
ママがそうつぶやいた。
でもママ、
私にとっての自由は、
広い草原で走り回ることでもなく、
ふわふわの雪の上で思い切りジャンプすることでもないんだよ。
このあたたかい陽だまりの中で、
ママに優しく撫でられながら、ウトウトしてしまうこのひとときが、
私にとっての自由、そのものなんだよ。
私に自由をくれたのは、
あの日、ペットショップで私を抱き上げてくれた、
世界でたったひとりのママだったんだ。


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