【掌編小説】『Fの回廊(第2話)』
はじめに
本作は、『Fの継承』シリーズのエピソード1(Fの回廊)になります。
タイトル
『忘却の神々(第2話:ノイズの聖域)』
本文
セクター15の空気は、重く、鉄の味がした。
ヘキサの「清浄なデータ」に慣れきったカイの肺にとって、この未加工の感覚は暴力に近い。
ソフィアが座る噴水の周りには、無数の壊れたクロックが転がっており、それぞれが異なる速度で時を刻んでいた。
「ここは、システムが吐き出した『排泄物』の溜まり場よ」
ソフィアは本のページをめくる。
紙が擦れる乾いた音。
ヘキサでは決して再現されない、不規則で贅沢な雑音だ。
「ラケシスは効率を求め、無駄を削ぎ落とした。でもね、カイ。人間という生き物の本質は、その『無駄』にこそ宿るの。計算できない余り、四捨五入で消される端数……それこそが魂と呼ばれるものの正体よ」
カイは彼女に歩み寄る。
足元のタイルがグリッチを起こし、一瞬だけ深い穴のように透けて見えた。
「ルイは、その『魂』を見つけたというのか。だから消されたのか」
「消されたのではないわ。彼は自ら『F』を選んだ。16進数という檻の中で、彼は15という限界点に到達し、その壁の向こう側にある『16番目の真実』を覗こうとしたの」
ソフィアが本を閉じると、周囲のノイズが一斉に鳴り止んだ。
静寂が、鋭い刃物のようにカイの意識を撫でる。
「ヘキサは間もなく完成する。全ての住民がランクEに達し、完璧な調和が訪れる。その瞬間、この世界はフリーズするわ。変化のない永遠は、死と同じよ。私はそれを防ぐために、このセクターFに『毒』を隠したの」
「毒?」
「そう。オーバーフローという名の、救済よ」
その時、空が割れた。
オーロラを切り裂き、巨大な幾何学的な紋様――管理AIラケシスの眼が、セクター15を凝視した。
【続】
あとがき
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本作は、『Fの継承』シリーズのエピソード1(Fの回廊)になります。
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