【掌編小説】『この荷台に揺られて(第3話)』
はじめに
本作は、『コンテナ・コード』シリーズのエピソード1(この荷台に揺られて)になります。(毎週土曜日に投稿予定となります。)
タイトル
『この荷台に揺られて(第3話:揺れる疑念)』
本文
コンテナの空気が変わった。
誰も言葉を発さず、ただ“B-52”と呼ばれた男の亡骸を見下ろしていた。
その時、ユウの足元近くに小さな異物が落ちていることに気づく。
「……これ、焼けてる?」
拾い上げたのは、焦げ跡のついた名札。かすかに文字が読み取れた。
> 『補佐官Y.S──』
自分の名前。ユウは一歩、後ずさる。
──なぜここに、燃えた“自分の名札”がある?
直後、再びシズクがノートを開く。
> 『記録:補佐官の証拠品発見による模倣反応の変化。
> 対象:Y.S./感情値:混乱・拒絶・微弱な覚醒兆候』
「……これ、僕の……“記録”?」
ユウの声は、誰に向けたものか分からなかった。
と、そのとき。
ピィィ──という甲高い警報音が響いた。
> 『酸素濃度低下中。制限環境に移行します』
> 『残り時間:60分』
> 『非常ボタンは1回限り使用可能です。使用後の再起動はできません』
「はあっ!? 酸素が……減ってるってこと!?」
カナコが叫ぶ。
「落ち着け。呼吸を整えれば──」
タカミチの声も、焦りを隠せない。
ユウは、立ち尽くしながら呟いた。
「……俺、この空間、知ってる気がする」
全員がユウを見た。
「夢で見たんじゃない。もっとこう……何度も、ここにいたような……」
「それも“模倣”の記憶なんじゃないの?」
カナコが言う。
「違う。“模倣”じゃ説明できない──もっと、身体の奥で覚えてる」
再び、ノートをめくるシズク。
> 『酸素制限下での選択行動を記録。
> Y.S.が自発的に真実を口にした場合、次段階へ移行可』
「……このページ、いま起きてることと一致してる」
「じゃあ、このノート……未来を記してるってことか」
ナカジマが低く呟く。
「それとも、“過去”の再演かもしれん」
静まり返った空間に、再び警報音が響く。
> 『残り時間:55分』
酸素の薄さが、じわじわと精神を侵食していく。
誰もが、自分以外の誰かを疑い始めていた。
そしてその中で、ユウだけが、確信に似た何かを掴みかけていた。
──自分は、この実験の鍵だ。
だが、扉を開けるための“正しい記憶”をまだ持っていない。
シズクのノートに、それが隠されているのなら──
彼は、もう一度、ノートの表紙を見つめた。
> 『模倣記録 ver.3』
その下に、微かに記された手書きの一文があった。
> 『この記録は、最後の観察を完了したとき、自動的に破棄される』
そして、その“最後”が、誰の死によって訪れるのか──
誰にも、まだ分からなかった。
【続】
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございました。
本作は、『コンテナ・コード』シリーズのエピソード1(この荷台に揺られて)になります。
次回は来週土曜日に投稿予定となります。
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