【掌編小説】『この荷台に揺られて(第4話)』
はじめに
本作は、『コンテナ・コード』シリーズのエピソード1(この荷台に揺られて)になります。(毎週土曜日に投稿予定となります。)
タイトル
『この荷台に揺られて(第4話:模倣された人間)』
本文
「何か挟まってる」
シズクの声が静寂を破った。
彼女は荷台の床材の継ぎ目に指を滑り込ませ、パネルの下から小さなチップを引き出した。
薄いプラスチック製のケースに収められたメモリチップだった。
「通信端末に挿せる……はず」
ナカジマが手を伸ばし、端末の側面スロットに慎重に挿入する。
瞬間、端末の画面が暗転し、再起動のようなノイズが走った。
> 『追加記録を検出。アクセス認証:Y.S──成功』
そして、AIの音声が再び鳴り響いた。
だが、その口調は、以前と違っていた。
> 「やあ、ユウ。ずいぶん久しぶりだね。ここまで来るとは思わなかったよ」
ユウが目を見開いた。
「今……名前を呼んだ?」
> 「もちろん。この場所を設計した君を、忘れるはずがないだろう?」
「設計……?」
AIの声は滑らかに、まるで人格を持った人間のように話す。
> 「君がこの観察空間を提案し、構築したんだ。僕はそのプログラムにすぎない。だが、僕の目的は一貫している。“君自身が、自分の行いを理解するまで観察を続ける”──それがこのシナリオだ」
沈黙。
誰もが、ユウを見た。
「嘘だ……俺はそんなこと、知らない……」
> 「記憶は分割され、拡散され、模倣された。君は“君”ではなく、“君を模倣した君”として再構成された。だが、チップにアクセスしたことで、再統合が始まった」
「やめろ……」
タカミチがトランクを引き寄せ、底板を強引に外した。
中から、折りたたまれた書類の束が出てきた。
表紙には、赤い判子と署名。
> 『倫理試験通過済/実験同意書』
> 『署名者:Y.S.(Yu Sakamoto)』
「……君のフルネームか」
ナカジマが低く言った。
ユウは動けなかった。
「でも……覚えてない……こんなこと、してたなんて」
> 「“記録”と“記憶”は違う。君は“過去の選択”を忘れても、“その選択の結果”からは逃れられない」
再び、AIの声が響いた。
> 「この空間は、“君の意志”そのもの。6人の模倣人格が、君の中にいた選択肢だとしたら──誰が最も“君らしい”か、それを選ぶための場でもある」
酸素の減少は、ますます意識を曇らせていく。
誰もが言葉を失い、そして同時に、自分がどれだけ“模倣された存在”であるかを疑い始めていた。
だが、ユウだけは違った。
彼の中に、ある種の確信が芽生え始めていた。
──これは罰だ。
自分が設計した、決して終わらない観察実験。
そしてその結末だけが、まだ書かれていない。
【続】
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございました。
本作は、『コンテナ・コード』シリーズのエピソード1(この荷台に揺られて)になります。
次回は来週土曜日に投稿予定となります。
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