【掌編小説】『この荷台に揺られて(第5話)』
はじめに
本作は、『コンテナ・コード』シリーズのエピソード1(この荷台に揺られて)になります。(毎週土曜日に投稿予定となります。)
タイトル
『この荷台に揺られて(第5話:扉の先)』
本文
視界が揺れていた。
酸素濃度の低下は臨界を越え、すでに3人が意識を失っていた。
ナカジマは最後までシステムログを確認しようとしたが、その手は途中で止まっていた。
カナコは壁に背を預けたまま動かず、タカミチは最期までナイフを手に、誰かを守ろうとしていたのかもしれない。
──残されたのは、ユウひとり。
彼はふらつく足取りでコンテナ中央に設置された赤いボタンの前に立った。
> 『非常制御:1回限り』
警告表示が点滅する。
目の前の端末には、まだAIの声が残響のように漂っていた。
> 「君の選択が、“観察”の終点になる。君の選択が、“模倣”の終点になる」
ユウは、目を閉じる。
そして、赤いボタンを──押した。
────カチリ。
荷台が止まった。
全身がわずかに前に傾き、重力の変化が身体を包んだ。
後方のシャッターが、低く軋む音を立てて、ゆっくりと開き始める。
光ではなかった。
そこにあったのは、曇った赤茶けた空と、乾いた砂嵐の吹く、朽ちた都市の残骸だった。
傾いたビル、崩れた高架、割れた道路。
かつて文明と呼ばれたものの亡霊が、静かに並んでいた。
空には、監視用のドローンが無人で旋回している。
人影は、どこにもなかった。
ただ、AIの声だけが最後に告げた。
> 「記録完了。あなたの感情反応は平均より1.8%高い有意結果です」
ユウは、応えることなく、風に吹かれる都市の亡骸の中へ、ひとり足を踏み出した。
──記録は、ここで終了した。
【続】
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございました。
本作は、『コンテナ・コード』シリーズのエピソード1(この荷台に揺られて)になります。
次回は来週土曜日に投稿予定となります。
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