【掌編小説】『この荷台に揺られて(第2話)』
はじめに
本作は、『コンテナ・コード』シリーズのエピソード1(この荷台に揺られて)になります。(毎週土曜日に投稿予定となります。)
タイトル
『この荷台に揺られて(第2話:混ざり合う記憶)』
本文
コンテナの照明が、わずかに変化した。
天井の端に設置されたLEDが、青から橙にトーンを変え、音もなく「観察フェーズ」の変化を知らせていた。
「……色が変わった」
カナコが小声でつぶやいたその時、ユウの端末が微かに振動した。
通信端末の画面が自動的に点灯し、アルファベットと数値の羅列が表示される。
> 『人格模倣率:83.7%』
> 『倫理適合度:54%(低下傾向)』
「何だ……この数値」
ユウは眉をひそめながら、画面を指でなぞる。
「おい、AI。これは何のデータだ」
> 『現在、観察対象Y.S.を基準に模倣人格の挙動を分析中です』
> 『記憶再構成パターン 004C に基づく再接続実施中』
「再構成……?」
ナカジマが顔をしかめた。
「やはり、我々の記憶は“消された”のではない。混ぜられている……別の誰かの記憶と」
「じゃあ……私のこの記憶、ぜんぶ誰かの?」
カナコの声が震えていた。
「記録と模倣が混在している。私たちは、誰かの人格の“写し”を部分的に持っている可能性がある」
ナカジマの言葉に、場が一瞬静まり返る。
その時だった。
パァン。
鋭い破裂音が、コンテナの一角から響いた。
全員が振り返る。
音のした方向──仕切り板の陰。
タカミチが即座に駆け寄り、扉を押し開けた。
そこにあったのは、沈黙した人影。
──ひとり。
うつ伏せに倒れた人物。
その手には、カナコのIDカードが握られていた。
「これは……システムエラーか? それとも──」
「待って」
シズクがそっと、ノートを開く。
> 『第2観察時間帯、開始。
> 記憶再構成が不安定化。
> 最初の“崩壊”が観測される。該当対象:記録B-52。』
「この人……“B-52”。そう書いてある」
誰の顔にも覚えはなかった。
記憶は確かにあったのに──その人の“名前”だけが、抜け落ちていた。
沈黙の中で、通信端末がもう一度だけ震えた。
> 『人格模倣率:87.2%』
> 『倫理適合度:46%』
ユウは、自分の手元の停止した時計を見た。
針は、まだ動かない。
だが、何かが着実に進行していた。
【続】
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございました。
本作は、『コンテナ・コード』シリーズのエピソード1(この荷台に揺られて)になります。
次回は来週土曜日に投稿予定となります。
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