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AIという「大津波」の正体と、ヒトに残された仕事|文藝春秋PLUS レポート #3

文藝春秋PLUSでは、AIがもたらす変革について、二人の異なる角度からの知性に迫りました。伝説的エンジニアの中島聡氏と、SF作家でありコンサルタントでもある樋口恭介氏です。二人の語りから浮かび上がるのは、AIが単なる「道具」を超え、社会の構造そのものを書き換えつつあるという冷厳な事実です。

まず中島氏が警鐘を鳴らすのは、この変化の「規模感」についてです。パソコンやスマートフォンの登場ですら産業と文化を一変させましたが、AIがもたらすインパクトはそれを「凌駕する大津波」だと言います。象徴的なのは、優秀なエンジニアほどすでにコード生成の大半をAIに委ねているという現実です。定型業務——データの整理や診断といった「特定スキルへの依存」——は、もっとも先に波に呑まれます。一方で、詰め込み教育もまたAIが代替するため無用の長物となり、「新しいことを学ぶ楽しさ」と「前向きな好奇心」こそが、これからの時代の根幹的な資質になると中島氏は説きます。少子高齢化で人手不足に直面する日本については、人型・介護ロボットなど「フィジカルAI」の実験場として世界に先駆けてビジネスを展開できるという、逆転の発想での活路も示しています。

一方、樋口氏はより思想的な次元からAI時代の地図を描きます。論理的推論や情報抽出はLLMが得意とする「演算」の領域であり、従来のコンサルティングの仕事は論理的に崩壊しつつあるというのが樋口氏の診断です。そのうえで彼が注目するのが「加速主義(Accelerationism)」——技術を限界まで加速させ、停滞した社会を破壊してその先へ行こうとする思想です。イーロン・マスクやピーター・ティールといったアメリカのテック界への影響は、その延長線上にあります。さらに「効果的加速主義(e/acc)」として、AI開発の加速を支持する匿名の集団がSNSを介して投資や情報の拡散に多大な影響を与えているという現実も見逃せません。対照的な視座として、台湾のオードリー・タン氏らが提唱する「プルラリティ(多源性)」——デジタルを活用して多様な意見を政治的意思決定に反映させる新しい民主主義のかたち——も紹介されます。

二人の議論が交差するのは、「ヒトに残された仕事とは何か」という問いです。分析や情報収集がAIに置き換わるからこそ、「自分は何者で、どこに行きたいのか」という欲望の定義と、全体のディレクションを描くことが、人間固有の役割になる。AIが感情を持つことはなくとも、人間に共感させる「感情的な振る舞い」はビジネスとして実現され、やがて人間がAIに依存する時代が来ると中島氏は予測します。

私たちは今、津波の「手前」に立っています。波に呑まれるか、波を乗りこなすか——その分岐点は、スキルの多寡ではなく、変化を恐れない知的態度にあるのかもしれません。

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