奇跡のゲル「水晶体」
私たちの身体で最も重要な機能の一つ、視覚。
その視覚に欠かせないのが眼の水晶体です。
普段、意識することはありませんが、水晶体とはどんなものなんでしょうか?
水晶体は眼のレンズの役割を担っています。
凸レンズのような形状をしている無色透明の生体ゲルで、
成分はタンパク質34%、水分が66%です(厳密に言うと、僅かに他の成分も含んでいます)。
その厚さは約4mmで、直径は10mm前後です。
チン氏帯(毛様小帯)と毛様体という筋肉が水晶体を支えています。
(チン氏帯は、ドイツの解剖・植物学者のヨハン・ゴットフリート・ツィンに因んで名付けられました)

毛様体筋とチン氏帯は水晶体の厚さを変える調節機能を持っていて、
近くのものを見るときは毛様体筋が収縮し、チン氏帯は逆に弛んで水晶体は丸く厚くなります。

遠くのものを見るときは毛様体筋が弛み、今度はチン氏帯が引っ張られて水晶体は平たく薄くなります。

このようにしてピント調節が行われているんです。
水晶体に存在するタンパク質はクリスタリンというものですが、
未だに詳しい立体構造が分かっていません(2025年6月時点で、構造解明がかなり進みました。近い将来、詳細な立体構造が解明されるかもしれません)。
水晶体は、このクリスタリンを30%以上も含む濃厚溶液で満たされているのに、無色で高い透明性を持っています。
これは驚異的なことで、10%でもタンパク質のような高分子を含んでいれば、ゲルは濁ってしまいます。
下の写真は、カラギーナンという海草から抽出された多糖類で作ったゲルです(ソースの増粘剤やゼリーなどに使われます)。

濃度1%のカラギーナンゲル(透き通っていて綺麗です)

濃度6%のカラギーナンゲル(1%よりも光を反射しています)
1%(重量)のカラギーナンのゲルは無色で透き通っていますが、6%では黄色くなり、若干曇っています(濃度が高いとゲル化前の粘性も高く、気泡を抜くのが難しいです...)。
このように、低濃度では無色透明に出来ても、濃度が高くなるとゲルの透明度は失われてしまいます。
水晶体のように30%以上もタンパク質が含まれていれば、真っ白になっていても不思議ではありません。
無色透明になっている理由の1つが、温度です。
僅かでも水溶液の条件(温度)がずれると水晶体は白濁してしまいます。
これが白内障です。
無色透明を保つ絶妙な条件に調整されているんですね。
他に、クリスタリンの構造も深く関係していると考えられます。
以前ご紹介した温度応答性ゲルは、僅か1度の違いで透明度が変わります。

31度までは無色透明なのに、32度になるとゆっくりと白濁します。
水晶体も温度応答性ゲルと同じように、ゲルを構成する高分子(ここではタンパク質)が集まって密になり、
光の乱反射が起きて白濁すると推測されています。
ただ、白内障の詳細な原因はまだ分かっていません。
加齢によって水晶体は弾力を失い、ピント調節機能が低下します。
更に、温度などの調節機能が低下し、透明度も下がります(黄変も起こります)。
他にも、紫外線や過度の飲酒、タバコなども悪影響を及ぼします。
特にタバコは大きな影響を与えます(老化の促進、眼への強い刺激など)。
ちなみに、魚の目の水晶体は楕円ではなく、綺麗な球体をしています。
水の中は空気中と屈折率が違うため、水中でも正確に物を見るために大きく光を曲げるようになっているんですね。
繊細な機能を持ち、絶妙なバランスで透明度を保っている水晶体。
いつまでも大切にしたいですね。
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