青森「みろくの滝」で見上げた、岩肌のスヌーピーと2018年の夏
川の音の向こうで、妻が立ち止まりました。
「ほら、あそこ」
指さす先の岩肌を見上げた瞬間、私はしばらく声が出ませんでした。水の筋が流れ落ちるその輪郭が、あまりにも見覚えのある横顔だったからです。
少し前に書いた「撮りスヌ」の話では、展示室の中でカメラを構える側にいました。
<当時の記事はこちら👇>
スヌーピーミュージアムで「撮り鉄」が「撮りスヌ」に!|げじげじくん🎈
今回は、ガラスケースの外でも、公式のグッズ売り場でもなく、山の奥。
自然の中で、思いがけず“スヌーピー”に出会った一日のことを書いてみます。
🚆「青森にスヌーピーの滝があるらしいよ」と言われた日
きっかけは、2018年7月のある夜でした。
妻がふいに、「青森県にスヌーピーの滝があるらしいよ。今度見に行ってみようよ」と言い出しました。
結婚してから、私はずいぶん妻に連れられてスヌーピー関連の場所に足を運ぶようになりました。
気づけば、自分のスマホのカメラロールにも、あの白い横顔が増えています。ちなみに私の推しは、黄色い相棒、ウッドストックですが。
当時、小学生だった子どもは、スヌーピーにはあまり関心を示していませんでした。
そこで私が差し出したのは、別の誘い文句です。
「青森に行くなら、東北新幹線のE5系『はやぶさ』に乗れるよ」
その一言で、夏休みの行き先は決まりました。
スヌーピーと、E5系。
それぞれの「目当て」を胸に、家族3人で北へ向かったのが2018年の夏です。
🚆峠を越えた先にあった横顔
滝の正式名称は「みろくの滝」と言うそうです。
新青森駅でレンタカーを借り、ハンドルを握りました。
地図で見ると、十和田湖や奥入瀬渓流が近くにあります。
近い、と言っても、実際は峠道をいくつも越えていきます。
カーブを曲がるたびに、右足でアクセルを踏み込み、また緩める。
その繰り返しで、到着する頃には、ふくらはぎがじんわり重たくなっていました。
駐車場に車を停め、少し歩くと、水の音が近づいてきます。
そして、岩肌。
あれは「似ている」というより、もう“そのもの”でした。
丸みを帯びた額、少し突き出た鼻先。
滝の水がちょうど輪郭をなぞるように流れ落ちています。
誰かが削ったわけでも、彫ったわけでもない。
長い時間と水の力が、偶然つくった形。それが、あのキャラクターの横顔に重なって見える。
「見事だね」
妻と、ほとんど同時にそうつぶやいていました。
しばらくのあいだ、二人で上を向いたまま動きませんでした。

🚆岩の上の水遊びと、興味の温度差
一方で、子どもはというと、岩場を見つけるなり、水の流れに足を浸し、石を拾い、ひたすら遊んでいました。
「スヌーピーだよ」と声をかけても、「ふーん」と言いながら、また水に手を伸ばします。
同じ場所に立っていても、見ているものは違うのだなと思いました。
私は岩肌の輪郭を目で追い、妻は写真を撮りながら角度を探し、子どもは足元の冷たい水に夢中になる。
それぞれの関心が、きれいに交わらないまま、でも同じ時間を過ごしている。
長時間の運転で少し張っていた足の感覚が、水音の中でゆるんでいきました。
ここまで2時間以上かけてハンドルを握ってきたことを、ようやく体が受け入れたような気がしました。
「来てよかったね」とは、誰も言いませんでしたが、しばらくその場を離れようとしなかったことが、答えだったのかもしれません。
🚆目的が違っても、同じ列車に乗る
今回の旅は、妻にとっては「スヌーピーの滝」、子どもにとっては「E5系はやぶさ」。
私は、そのあいだでハンドルを握り、時刻表を見ていました。
目的がひとつでなくても、家族は同じ列車に乗れるのだと、そのとき少し思いました。
誰かの「好き」に引っぱられて動いたはずなのに、気づけば自分も同じ方向を見上げている。
翌日は新青森駅近くのホテルに泊まり、さらに北へ向かいました。
海を渡る予定を控えた夜、部屋の窓から見える駅の明かりをぼんやり眺めながら、岩肌の横顔を思い出していました。
あの形は、これからも少しずつ変わっていくのかもしれません。
また同じ場所に立ったとき、同じ横顔に見えるのかどうかも分かりません。
それでも、あの夏、峠を越えた先で見上げた岩の輪郭と、水の音だけは、静かに残っています。
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