追い抜かない特急と、常磐線で加速する焦り|茨城の梅と海を見る日帰り旅(2026年2月)#1
朝8時台のホームは、陽射しだけが先に春のふりをしていました。
手袋を外すと、指先がまだ冷たいままです。
「まもなく、臨時特急――水戸偕楽園高尾号が到着します」
その放送が流れた瞬間、空気が少し持ち上がりました。
カメラを構える人たちがホームの端に集まり、同年代くらいの夫婦と思われる人たちが乗車口に集まってくる。
いつもの武蔵野線の朝なのに、足元のコンクリートまで別の場所のように見えました。
この記事では、武蔵野線を走る臨時特急に乗った朝の、少しだけ浮き足立つ非日常と、
車内で電子チケットを取ることになった焦りについて書きます。
高揚と現実的な不安が、同じ時間に重なった話です。
🎫特急なのに、追い抜かない
走り出してしばらくは、前を行く各駅停車の後ろをゆっくり進みました。
「特急」と聞いて思い浮かべていた軽やかな追い抜きはありません。
あれ、追い越さないんだ。
肩透かしのようで、でもどこか面白い。
速さよりも、普段は通らないルートをなぞること自体が、この列車の役目なのだと気づきます。
武蔵野線から常磐線への連絡線に入ると、景色の密度が変わりました。
線路の分岐、カーブの角度、見慣れない架線柱。胸の内側がじわっと温かくなる。

そして常磐線に入った途端、列車のスピードが上がりました。
さっきまで慎重だった足取りが、一気に前へ伸びていく。
その加速が、別の焦りを連れてきます。
🎫登録したかどうかを、思い出せない

車内案内に「電子チケット」の表示を見つけました。
現地で並ぶより、今のうちに取得しておいたほうがよさそうです。
少し迷ってから、スマートフォンを開きました。
ログイン画面で手が止まります。
パスワードを忘れたわけではありません。
そもそも、JREのIDを登録していたかどうか、その記憶が曖昧だったのです。
登録していなかったら、今から新規登録。
電波が不安定だったら。
到着までに間に合わなかったら。
常磐線を走る列車は、さっきより明らかに速い。
車窓の流れが速まるほど、自分の中の時間もせわしなくなります。

体の奥がじわっと熱を帯び、背中にうっすら汗がにじみました。
寒い朝だったはずなのに、コートの内側だけが別の季節です。
「現地で並ぶ」という選択肢が頭をよぎります。
でも、列の最後尾に立つ自分を想像すると、もう一手だけ試したくなりました。
登録済みかどうかを確認する方法を探す。
思い当たるメールアドレスで照会する。
指先の動きが、さっきより慎重になります。
――発行完了。
画面の文字を見た瞬間、列車の揺れがやっと体に戻ってきました。
🎫加速と安堵のあいだで
安堵と同時に、目の奥がずんと重くなります。
頭の芯がじわじわ疲れている。
隣では妻が静かに外を見ています。
私は目を閉じました。

非日常のルートに胸が高鳴り、
デジタルの確認不足に焦る。
どちらも同じ旅の中で起きていました。
線路を選ぶことも、IDを整えておくことも、
もしかすると同じ「設計」なのかもしれません。
ポケットの中には、発行済みの画面。
次に同じ列車に乗るとき、私は前日に確認するでしょうか。
たぶんまた、出発の朝に思い出す気がします。
白湯を飲みながら。
(つづく)
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偕楽園で電子チケットが開かない朝|茨城の梅と海を見る日帰り旅(2026年2月)#2|げじげじくん🎈
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