架空名義口座を「泳がせる」時代 銀行間情報共有がもたらす光と影
特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺が急増する中で、預金口座のアンチ・マネーロンダリング対策は大きな転換点を迎えています。
これまでの実務は、疑わしい口座を検知して速やかに凍結・解約するという「点」の対応が中心でした。しかし現在は、警察が金融機関等の協力を得て開設する架空名義口座を捜査に活用する議論や、金融機関横断で情報を共有する共同基盤の構築など、より踏み込んだ対策が動き出しています。
架空名義口座の活用による資金移動の追跡
令和7年12月の「金融サービスを悪用したマネーロンダリングへの対策に関する報告書」(警察庁)で示された架空名義口座の活用は、警察官が身分を伏せて口座譲渡に応じ、資金移転の状況を把握することで犯罪グループの実態解明につなげる仕組みです。架空口座は「即 凍結せよ」から、「おとり操作のために敢えて泳がす」という運用に転換することとなります。
この運用を実効性のあるものにするには、自行内の情報だけでは不十分であり、銀行間の情報連携が必要となります。即時凍結というこれまでの原則論から一歩踏み出し、犯罪収益の移転防止のためにあえて資金の流れを追うという判断は、実務の現場に新たな運用の難しさを提示します。
共同化の構造とシステム選定の背景
こうした流れを受け、全預金取扱金融機関が参加する不正利用口座情報共有システムの構築が進んでいます(銀行協会)。開発ベンダーにはNTTデータが選ばれました。日立も技術力があるしAMLにも強いのですが、何故、NTTデータなのでしょうか。
ここでの選定理由は、単なる技術力の比較ではなく、このシステムが銀行間を繋ぐ社会インフラであるという構造に由来すると思われます。補助金の活用や法制度との整合性、業界全体の調整が前提となるプロジェクトでは、尖ったソリューションよりも、関係者全体が合意しやすく説明責任を果たせる安定性が優先されます。
この仕組みは、最初から重い政策的責任を負って運用されることになります。
判断の集約化に伴う実務上の懸念
情報の共同化は避けられない流れですが、一方で判断のあり方には留意すべき点があります。データが集約されると、効率性の観点から判断そのものを中央で一括して行うべきだという議論が起こりがちです。
しかし、グレーゾーンの判断を中央に集約しすぎれば、現場の行員が感じる微細な違和感は切り捨てられ、説明可能性だけを重視した硬直的な仕組みになりかねません。逆に、各行が責任を恐れて情報提供のみに終始すれば、共同基盤としての機能は果たせなくなります。
現場の知見と対策の本質
金融犯罪対策の実効性は、数値化しきれない現場の違和感を拾い上げ、先手を打つ実務の積み重ねによって支えられています。
例えば、同一名義の口座が短時間で遠隔地にて利用されるといった不自然な動きに気づく感性は、現場が長年培ってきた知見です。共同基盤は気づきの材料を増やすソースとしては有効ですが、最終的な判断までをシステムに委ねるべきではありません。口座凍結が権利侵害として議論されることもありますが、対策の根幹は顧客の財産権を守ることにあります。
進行中の制度変更は、金融犯罪対策の判断の重心をどこに置くべきかを改めて整理する節目となっています。
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