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読書感想文|赤と青とエスキース

偶然手に取った本でしたが
とてもよかったので
読書感想文を残します。

青山美智子『赤と青とエスキース』
PHP文芸文庫、2024年、初版

2022年本屋大賞第2位作品。
以下、ネタバレがあります。


あらすじ

エスキースとは絵の下絵のことである。
どんな絵にするか構図やモチーフを
キャンバスとは別の紙に描くもので
下書きとは異なる。

作品中の人物が
漫画で言えばネームのようなもの、
と言っていた。

物語は個々のエピソードで構成され
あとでつながるオムニバス形式。
エピソード間のつながりは結構強い。

一つ目のエピソードは
オーストラリアに交換留学中の
日本人女性とその恋人の話だ。

私は教育ママなので
大学生になった我が子が
留学する日のことも考えている。

しかしこの物語に息子の未来を
重ねて読むことはなかった。
主人公が女性だったことと
息子の留学はまだまだ先のことで
(きっとその日はあっという間に来るのだが)
結局、自分に重ねて読んでしまった。

留学すれば、
留学しさえすれば、
留学するだけで、
今までとは違う自分になれる
と思っていた主人公の期待は
おばさん(今の私)から見れば
全肯定できる。自然なことだ。

いくつかのエピソードが続き
その最後で読者は”神の視点”を得る。
全てに一つのエスキースが登場するため
読んでいる途中でも
エピソード間の関係性はわかりやすい。

二つの感動

この本には好きなところが二つある。
そのおかげで感想文を書くに至った。

物語の構造

一つは物語の構造だ。
これについてネタバレせずに
感想を書くのは難しい。
あっそうだったのかとその構造に
気づかされるのが面白いのだから。

この形式の物語は多くあるし
新しいエピソードが前のエピソードと
どう繋がってくるのか
結構、気にしながら読んだと思う。

また、
道尾秀介の『いけない』を読んでからは
語り手が誰なのかを意識したり
伏線を見つけるスキルも磨かれたと思う。

ネタバレに直結する恐れがあるが
感想を言ってしまうと、それにも関わらず
同じ人だと思わなかったこととか。
さらにその伏線を恋人同士の会話
を通じて堂々と出していたこととか。

うーん、と唸ってしまった。

少しやりすぎなくらい、全てのエピソードを
しっかりと結びつけていく作品だった。
未回収の伏線が残らないため
気持ちよく読み終えることができた。


感情を揺さぶるエピソード

好きなところの二つめは
感情を刺激され、ぐっとくる場面が
複数あったことである。

とりわけ2章はよかった。
額縁を作る職人の、
入社8年目にして初めてとなる
額縁を作る仕事。

どうして8年も?
オーダーメイドの需要がないらしい。
私も大量生産された額を買うので
額からの視点は新しかった。

「主役は絵であり、
額の役割は主役を引き立てること」
これを貫くことができた
若い額職人のプロフェッショナリズムに
感動して涙が出た。

他の章でも、
私が全く体験したことがないことも
描写によって想像力を掻き立てられ、
また涙が出るのであった。


自分よりも少し年上の作家を読む

4章の主人公と私は同年代である。
この章に限らないがこの本には
自分と共通することが多くて
印象に残った。

しかしここで気をつけるべきは
長く生きるほどそういうフックが増える。

絵を描くこともあれば
メンタル不調に陥ることもある。
パートナーとは一緒にいるだけで
一度も分かり合ったことなどないように
思うこともある。

ある程度は当たり前なのである。
それを踏まえて冷静になると
自分とは異なる設定も多い。

誰とは言わないが
自己愛強めの人間が抱く感動の大きさは
詐欺への引っかかり易さと同等であるように
感じる。私はかなり危ない。

雲行きがあやしくなってきた。
いったい私はこの感想文を
どういう方向で締めくくろうとしているのか。

感想文を書こうと思うほど
心が動いた作品である。
だからこそ、とも言えるが
相手が私の行動に影響を与える意図を
持っていないか気になってしまう。
子どもができると警戒心が強くなるが
歳をとると猜疑心が増すのだろうか。

著者は私より少し年上の女性である。
同じ時代を生きる先輩の書いたものは
少し先を照らしてくれる。
私はターゲットとなる読者層だ。
それ自体には何の問題もない。

しかし、
ものごとをこの物語の主人公のように
考えれば楽になる、あなたもそうしたら?
と感じさせる意図があるなら別だ。

それでもこんな警戒心を突破して届いた
メッセージがある。うろ覚えだが、
このユリさんの言葉で最後にしよう。

「人生一度きりだと思ったら
そんなに思い切りできない。
人生は何度でもあると思うからできる」

ユリさん

ちなみに
ユリさんは主人公ではありません。

おしまい。

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