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第3話:完璧なフローチャートが崩れる日〜命の誕生と、想定外の「叫び」〜|『避雷針パパの育児マネジメント』〜元・業務改善のエースが、親が「不要」になる日を目指して奮闘する話〜

育児。それは、親が「不要」になる日を目指して進める、世界で最も過酷で幸福なマネジメントである。 かつて仕事に全てを捧げ、過剰適応の果てに挫折した一人の男。彼が「父親」として再び立ち上がり、ビジネススキルという名の武器を手に、愛する娘と妻を守り抜く。これは、泥臭くも戦略的な、家族のチームビルディングの物語である。

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39週目の休日、妻が「お腹が痛い」と言い出した。
いよいよ、その時が来た。

だが、私は慌てなかった。我が家には、あらゆる事態を想定して作り上げた完璧な「フローチャート」があったからだ。 陣痛の大きさ(大・中・小)、私の不在時・在宅時の分岐、救急車を呼ぶ基準、時間帯による両家への連絡手順、そしてアパートから産婦人科までの最短経路。

「もしも」の時に動転しないための、元・業務改善エースとしての集大成である。使わなくても、事前のすり合わせが無駄になることは決してない。

私は手順通りに車を出し、冷静に産婦人科へと向かった。 しかし、現場というものは常にマニュアル通りにはいかない。

病院に着くと、妻は痛がってはいるものの「陣痛って、こんなものなのかな……?」と違和感を口にした。 診断結果は「微弱陣痛」。

子宮の収縮する力が弱く、赤ちゃんが降りてこない状態だった。そのまま入院して様子を見たが、翌朝になっても状況は変わらない。

「遷延分娩(せんえんぶんべん)」——分娩が遅れ、このままでは妻の体力が奪われ、本番の出産に耐えられなくなると医師から告げられた。

提示されたのは3つの選択肢。
① 陣痛促進剤の使用(通常の陣痛より痛みが強い)
② 吸引分娩(カップで頭を引っ張るためリスクがある)
③ 帝王切開(最終手段であり、母体への負担が大きい)

私たちは、①の陣痛促進剤による出産を選択した。
分娩室へと運ばれる妻。血が苦手な私は事前に「立ち会わない」と二人で決めていた。しかし、いざその時を迎えると、妻は私の手を強く握りしめ、「直前まで一緒に居て」と懇願した。

点滴が始まり、しばらくすると妻の顔がかつてない苦痛に歪んだ。
「痛い! イタイ!! イタイッ〜!!!」

聞いたこともない絶叫が響き渡り、医師が「よしっ、始めよう」と声を上げた。出産の始まりだ。

苦痛に耐える妻は、私の手を絶対に離そうとしなかった。 ――この手を、離せるわけがない。 成り行きではあったが、私はそのまま立ち会うことになった。

「頑張って!! 踏ん張って!!!」 先生や看護師の励ましが飛ぶ。しかし、何度目かの波が来た時、私は強い違和感を覚えた。 頑張れと言うけれど、妻はもう、とっくに限界まで頑張っているのだ。

波と波の合間、妻が「もう無理、助けて……」と弱音をこぼした。 私は妻の額に自分の額を重ね、必死に語りかけた。
「辛いよね、代われるなら代わってあげたい。でもそれは出来ないんだ。思い出して、この為に二人で準備してきたじゃないか。もう少しで子供に会える。だからお願いだ、諦めないでくれ。俺を子供に逢わせてくれ」

妻は、小さく頷いた。 再び訪れた波。先生の「力を緩めないで!!! よしっ!!!」という声。

次の瞬間、「オギャア! オギャア!」という産声が分娩室に響いた。

私は、父親になった。新たな家族が増えたのだ。

生まれたばかりの娘を初めて抱っこしたときのことだ。 ゆっくりと手渡された我が娘は、思った以上に小さくて、思った以上に重かった。 そして「愛おしい」という感覚を、私は人生で初めて知った。

妻に「ありがとう」と伝えると、彼女は「こちらこそ、私独りだったら絶対に乗り越えられなかった。一緒に居てくれて、ありがとう」と笑ってくれた。

妊娠から出産まで、これは「二人の共同作業」という名の巨大プロジェクトだ。どちらか一人だけで乗り越えるのは、至難の業である。

退院後、最初の1ヶ月間はフェーズが変わり、妻は実家で過ごすことにした。 私も休日のたびに妻の実家へ通い、義母から抱っこの仕方や沐浴を教わる「父親修行」に励んだ。

初めての出産で体力を失い、2時間おきの授乳で昼夜が逆転する日々。なぜ泣いているのか分からない不安。妻にとって、自分の母親がそばにいる環境は絶大な安心感だったようだ。
正直、あの時の私だけでは彼女を支えきれなかっただろう。

この時期、どうしても両家の「孫への想い」が交錯し、意見の衝突が表面化しやすくなる。 ここで最も重要なのが、父親による「コーディネータースキル」だ。母親は我が子と自分の体で精一杯である。だからこそ、夫が両家の間に立ち、時には盾となりながら利害関係を調整していく。このスキルを身につけておくと、今後のマネジメントが格段に楽になる。

そして産後1ヶ月。いよいよ我が家の狭いアパートで、3人の生活がスタートした。 父親修行を重ねた私は、元エースとしての自負もあり、それなりの自信を持っていた。しかし、その自信は秒で崩れ去ることになる。

原因は「泣き声」だ。
妻の広い実家では気にならなかった声が、狭いアパートでは壁に反響し、鼓膜を突き刺す。 いや、あれは泣いているのではない。全力で「叫んでいる」のだ。 家の中で毎日、誰かが全力で叫んでいる姿を想像してみてほしい。特に夜泣きとなると、周囲が静まり返っている分、その破壊力は想像を絶した。

「馴れればどうにかなるよ」と妻は言ったが、私は心の中で訂正した。 これは馴れるのではない。「耐える」のだ、と。 当時の私にとって、唯一の救いは通勤電車の揺れと、会社の昼休みにとる短い仮眠だけだった。

そんな極限状態のマネジメントが続く中、我が家を揺るがす「1つの事件」が起きる。


最後までお読みいただき、ありがとうございます! 完璧なフローチャートの崩壊と壮絶な出産の立ち会い、そして未知なる「夜泣きカオス」へと突入した第3話でした。 少しでも「共感した!」「面白かった!」と思っていただけたら、ぜひ【スキ】や【コメント】をお願いします。皆様の反応が、次話執筆の大きな力になります!

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避雷針パパ|娘の未来を「築く」防波堤 無力さを知ったあの日から、もっと強く守ると決めた。 頂いたチップは、娘の笑顔を最大化する「仕組み」への投資と、娘への贈り物のために大切に運用します。戦略家パパ、娘のために全力で走ります。