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2026年7月前半の核酸医薬業界動向

後期臨床の「前進と選別」が同時進行――RNA編集、CNS・心臓送達、DDS・製造基盤が次の競争軸へ

2026年7月前半の核酸医薬業界では、ASO、siRNA、RNA編集、mRNA、アプタマーなど、幅広いモダリティで重要な進展が相次ぎました。

特に注目されたのは、希少神経疾患を対象とするASOの第3相試験が着実に進む一方、ATTR心アミロイドーシスやハンチントン病では後期臨床開発の厳しさが改めて示されたことです。また、RNA編集のヒトでの概念実証、心臓・中枢神経系へのsiRNA送達、アプタマーを活用したLNPの標的化など、核酸医薬の適用範囲を拡大する技術基盤にも前進が見られました。

6月後半には、siRNA医薬の承認・申請、神経・筋疾患を対象とするASO、次世代人工核酸、製造技術の進展が目立ちました。7月前半は、これらの流れがさらに進み、核酸医薬が「臨床的な有効性をどこまで証明できるか」、さらに「難標的組織への送達と商用供給をどう実現するか」を競う段階に入ったことを印象づけました。


RNA編集がヒトで標的結合を実証――新たな治療原理の臨床検証へ

ProQR Therapeuticsは、独自のAxiomer™ RNA編集プラットフォームを用いた治療薬候補AX-0810の第1相試験において、標的結合を示すポジティブなデータを獲得したと発表しました。総胆汁酸量が最大約8倍に増加するなど、薬理作用を裏づけるバイオマーカー変化が確認され、胆道閉鎖症を含む胆汁停滞性肝疾患に対する概念実証を達成したとしています。

Axiomer™は、細胞内に存在するADARを利用してRNAを一塩基単位で編集する技術です。DNAを恒久的に改変せず、RNAレベルで標的タンパク質の発現や機能を調節できる点が特徴です。

RNA編集では、優れた前臨床データが相次いでいる一方、ヒトで意図した編集・薬理作用を再現できるかが大きな課題でした。今回の結果は初期段階ではあるものの、RNA編集がプラットフォームの技術実証から臨床的な価値検証へ進み始めたことを示す重要なマイルストーンです。


希少神経疾患ASOが相次いで第3相へ

Stoke Therapeuticsは、ドラベ症候群を対象とするASO zorevunersenの第3相EMPEROR試験で、予定していた162名の患者登録を完了しました。zorevunersenは、正常なSCN1A遺伝子からのNaV1.1タンパク質産生を増加させることで、疾患の根本的な病態に介入することを目指す治療薬です。同社は2027年第1四半期から、米国FDAへのrolling NDAを開始する計画です。

Ionis Pharmaceuticalsも、アンジェルマン症候群を対象とするobudanersen(ION582)の第3相REVEAL試験で、小児を対象とするピボタルコホートの登録完了を発表しました。obudanersenはUBE3A-ATSを抑制し、父親由来UBE3A遺伝子からのタンパク質産生を回復させることを目的としています。トップラインデータは2027年後半に公表される予定です。

さらにIonisは、ドラベ症候群を対象とするION337の第1/2相ASCEND試験で、最初の被験者への投与を開始しました。ION337は、次世代NMA修飾技術を用いてSCN1Aのスプライシングを制御し、NaV1.1タンパク質の発現量を高めるASOです。

同じドラベ症候群に対して、StokeとIonisが異なるASO技術で開発を進めている点も注目されます。今後は、タンパク質発現の回復度、臨床症状への効果、投与頻度、安全性、患者年齢などを含めた総合的な比較が行われることになります。


個別化ASOが超希少疾患治療の選択肢に

Vanda Pharmaceuticalsは、シャルコー・マリー・トゥース病軸索型2S型(CMT2S)を対象とするVCA-894Aについて、米国FDAから希少小児疾患用医薬品指定を取得しました。

VCA-894Aは、IGHMBP2遺伝子の隠れスプライス部位変異を標的とするパーソナライズドASOです。特定の変異を有する限られた患者に対して、異常なスプライシングを修正することを目的としています。

患者数の多い疾患を対象とする標準化された医薬品とは異なり、個々の遺伝子変異に応じて設計されるN-of-1、あるいは同一変異を持つ少数患者を対象とするN-of-1+型の核酸医薬は、従来の創薬モデルでは治療開発が困難だった超希少疾患に新たな道を開く可能性があります。


後期臨床試験が示した核酸医薬開発の厳しさ

7月前半は、開発の前進だけでなく、後期臨床試験における厳しい結果も相次ぎました。

AstraZenecaとIonisは、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)を対象とするWainua(eplontersen)の第3相CARDIO-TTRansform試験において、心血管死および再発性心血管イベントを評価する主要評価項目を達成できなかったと発表しました。

安全性は従来の結果と一貫しており、単剤療法のサブグループでは名目的な有意差が確認されました。しかし、サブグループ解析は探索的な位置づけであり、試験全体の主要評価項目未達を置き換えるものではありません。

ATTR-CMでは既存治療が普及し、患者背景や併用薬も複雑化しています。そのため、標的タンパク質を十分に低下させるだけでなく、心血管死や入院といった臨床アウトカムの改善を明確に示すことが求められます。核酸医薬の薬理作用が確認できても、それを患者価値へ結びつけるハードルは一段と高くなっています。

Rocheも、ハンチントン病を対象とするASO tominersenの第2相GENERATION HD2試験と、RG6496の第1相POINT-HD試験の開発中止を発表しました。tominersenは変異ハンチンチンタンパク質の減少を示したものの、有効性目標には到達しませんでした。RG6496については、動物試験の結果を踏まえて開発中止が決定されました。

中枢神経疾患では、標的分子の減少が必ずしも臨床症状の改善に直結しない場合があります。介入時期、患者選択、投与量、脳内分布、標的を低下させる程度などを一体的に設計する必要性が改めて示されました。


タウ標的ASOは主要評価項目未達でも第3相を視野に

Biogenは、早期アルツハイマー病を対象とするタウ標的ASO diranersenの第2相CELIA試験データをAAIC 2026で発表しました。

試験全体では主要評価項目を達成できませんでしたが、60mg投与群では18カ月時点で臨床的悪化を抑制する傾向が示され、脳脊髄液および脳内のタウも顕著に減少しました。Biogenは、第3相開発への移行を計画しています。

今回の結果は、バイオマーカー上の標的抑制と臨床効果の関係をどのように解釈し、次の試験設計に反映するかという、中枢神経系核酸医薬に共通する課題を示しています。適切な用量、治療開始時期、患者集団を選定できるかが、第3相試験の成否を左右すると考えられます。


siRNAは投与頻度の低減と対象臓器の拡大へ

中国企業によるsiRNA開発の前進も目立ちました。

Argo Biopharmaceuticalは、遺伝性血管性浮腫(HAE)を対象とするプレカリクレイン標的siRNA BW-20805の第2相試験データをEAACI 2026で発表しました。年間2回の投与で持続的な発作抑制効果と良好な安全性プロファイルが示されており、慢性疾患における投与負担の軽減というsiRNAの価値を示す結果です。

Suzhou Ribo Life Scienceは、Madrigal Pharmaceuticalsとの提携によるMASH向けsiRNAプログラムで、最初の開発候補品選定マイルストーンを達成しました。今後、IND申請に向けた前臨床試験を開始する予定です。

同社は、冠動脈疾患を対象とするFXI標的siRNA vortosiran(RBD4059)の第2a相試験データをCPICで発表する計画も明らかにしました。RiboGalSTAR™技術を利用し、最長6カ月の持続効果を目指しています。

siRNAは、肝臓を中心に投与間隔を大幅に延長できるモダリティとして成熟しつつあります。今後は、半年から年1回投与を実現できるか、さらに既存薬との比較で明確な臨床上の優位性を示せるかが重要になります。


心臓・中枢神経系がRNAiの新たなフロンティアに

Atrium Therapeuticsは、PRKAG2症候群を対象とする心臓標的siRNA ATR 1072について、米国FDAからIND clearanceを取得しました。ATR 1072は変異PRKAG2 mRNAをノックダウンし、異常なAMPK活性を正常化することを目指す治療薬です。第1/2相Corventis™試験の最初の患者登録は、2026年末までに予定されています。

心臓は、肝臓と比較して核酸医薬の送達が難しい臓器です。ATR 1072の臨床入りは、心筋への有効なsiRNA送達が患者で再現できるかを検証する重要な機会となります。

Alnylam Pharmaceuticalsも、中枢神経系RNAiパイプラインの進捗を発表しました。アルツハイマー病および脳アミロイドアンギオパチーを対象とするmivelsiranの第2相APPlauDS試験を開始したほか、タウを標的とするALN-5288の第1相試験を進めています。

肝臓で成功してきたRNAiが、中枢神経系や心臓へ展開できるかは、核酸医薬業界の次の成長を左右する重要なテーマです。標的選定だけでなく、組織内分布、細胞内取り込み、作用持続性、安全性を含む送達技術全体が競争力の源泉になります。


mRNA治療薬は商用製造を見据えた段階へ

Arcturus Therapeuticsは、嚢胞性線維症を対象とする吸入型mRNA治療薬ARCT-032の第3相試験用供給および商用製造支援について、Thermo Fisher Scientificとの戦略的提携を発表しました。

核酸医薬では、初期臨床段階の少量生産と、後期臨床・商用段階の安定供給では、求められる製造体制が大きく異なります。特にmRNA医薬では、mRNA原薬、製剤化、充填、品質管理、スケールアップを一体的に構築する必要があります。

今回の提携は、ARCT-032が有効性評価だけでなく、承認後の供給を見据えた段階に入っていることを示します。吸入投与によって肺へmRNAを届ける本プログラムは、mRNA治療薬がワクチン以外の慢性疾患へ展開できるかを占ううえでも注目されます。

国内では、Meiji SeikaファルマとARCALISによる「mRNAがんワクチンによる医療用医薬品開発」が、福島県の令和8年度地域復興実用化開発等促進事業に採択されました。南相馬市との連携のもと、福島発のグローバル医薬品創出と地域産業の活性化を目指します。

CancerVaxは、世界人口の99.5%をカバーするとする単一のPolyepitope Smart mRNAバージョン2について、設計およびin vitro検証の完了を発表しました。がん細胞内でmRNAを選択的に作動させ、複数のウイルスエピトープを提示させることで、既存のT細胞免疫をがん細胞へ向ける構想です。今後は、in vivoでの選択性、安全性、抗腫瘍効果の再現が焦点となります。


アプタマーが医薬品とDDSの二つの方向で前進

リボミックは、抗FGF2アプタマーumedaptanib pegol(RBM-007)について、2~14歳の小児軟骨無形成症患者を対象とする国内第3相試験で、最初の被験者登録を完了しました。

アプタマー医薬は、抗体と同様に標的分子へ高い親和性で結合できる一方、化学合成による製造が可能です。RBM-007が国内第3相まで進んだことは、日本発アプタマー医薬の実用化に向けた重要な進展です。

同社は、富士フイルム富山化学と、DDSアプタマーを応用したLNPのCDMOサービスに関する業務提携契約も締結しました。リボミックがDDSアプタマーを非独占的に提供し、富士フイルム富山化学がLNP製造とアプタマー修飾を担います。

アプタマーをLNP表面に付加することで、特定の細胞や組織への選択的送達を目指すものです。これは、アプタマーを治療薬としてだけでなく、核酸医薬やmRNAを運ぶターゲティングリガンドとして事業化する取り組みと位置づけられます。


日本でも糖鎖リガンドとLNPを核とするDDS事業が拡大

KHネオケムと北海道システム・サイエンスは、糖鎖修飾核酸の受託合成サービスを拡充するため、業務提携契約を締結しました。

KHネオケムの高純度糖鎖技術GlyMuch™と、北海道システム・サイエンスの核酸受託合成・CRDMO機能を組み合わせ、特定組織への選択的送達を目指す糖鎖修飾核酸の受託合成サービスを提供します。

GalNAc-siRNAの成功が示したように、糖鎖リガンドは核酸医薬の組織選択性と薬物動態を大きく左右します。今後、肝臓以外の組織を認識する糖鎖リガンドが実用化されれば、糖鎖修飾核酸は肝外送達を支える重要な技術基盤となる可能性があります。

リボミックと富士フイルム富山化学によるアプタマー修飾LNP、KHネオケムと北海道システム・サイエンスによる糖鎖修飾核酸は、いずれも日本企業がDDS素材、核酸合成、製剤化、CDMOを組み合わせて新たな事業基盤を構築する動きとして注目されます。


7月前半の総括――核酸医薬は「標的を動かす」から「患者転帰を変える」段階へ

2026年7月前半の動向から、三つの大きな潮流が読み取れます。

第一は、ASOやRNA編集が、希少神経疾患や遺伝性疾患で後期臨床・承認申請を見据える段階に入ったことです。ドラベ症候群、アンジェルマン症候群、CMT2Sなど、病態の原因となるRNA発現やスプライシングを直接調節する治療戦略が具体化しています。

第二は、標的分子を動かすことと、患者の臨床転帰を改善することの間に、依然として大きな壁があることです。eplontersen、tominersen、diranersenの結果は、明確な薬理作用やバイオマーカー変化が得られても、それだけでは後期臨床試験の成功を保証しないことを示しました。

第三は、核酸医薬の成長領域が肝臓から中枢神経系、心臓、肺へ広がりつつあることです。同時に、アプタマー、糖鎖、LNPなどを用いた標的送達技術と、後期臨床・商用化を支える製造体制の重要性が一段と高まっています。

核酸医薬の競争は、優れた配列や標的を見つけるだけでは勝てない段階に入りました。どの疾患に、どのモダリティを選び、どの細胞へ、どの投与経路で届けるのか。そして、標的への作用を患者にとって意味のある臨床効果へ変換し、安定して製造・供給できるのか。7月前半は、こうした「実装力」が企業価値を左右することを鮮明に示した半月だったといえます。


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