【コラム Vol.17】メンバーチェンジ移行期の難しさ
新メンバー加入は、
基本的には明るいニュースである。
新しい声。
新しい表情。
新しい立ち位置。
もう一段変わるかもしれないという期待。
停滞していたものが、少し動き出すような予感。
それ自体は、悪いことではない。
むしろ、グループにとっては
必要な変化であることも多い。
新メンバー加入は希望である。
ただ、同時に、発表された瞬間から、
現体制への圧にもなる。
あるアイドルグループに、
複数の新メンバーが加入するらしい。
現在の体制から、人数が増える。
発表からお披露目までは、およそ一か月。
つまり、今の体制でのライブはまだ続く。
でも、一か月後にはもう別の体制になる。
この一か月が、かなり難しい。
メンバーチェンジは、
お披露目の日から始まるわけではない。
発表された瞬間から、すでに始まっている。
ステージ上にはまだいない新メンバーが、
今いるメンバーの見え方を変え始める。
ここに、
移行期の一番ややこしい部分がある。
現体制をやりながら、新体制を覚える
アイドル側から見れば、
この期間はかなり複雑である。
ライブに出るのは、まだ現行メンバーである。
しかし、練習しているのは現体制だけではない。
現体制の振り。
現体制の立ち位置。
現体制の歌割り。
それに加えて、
新メンバーを含めた新体制の振り。
新体制の立ち位置。
新体制の歌割り。
同じ曲でも、人数が変われば景色は変わる。
立ち位置が変わる。
動線が変わる。
誰がどこで歌うのかも変わる。
体に入っていたはずの曲が、
少しずつ別の形に上書きされていく。
それでも、
本番で披露するのは現体制版である。
ここが難しい。
今日はまだ現体制。
この曲はまだこの立ち位置。
このパートはまだこの歌割り。
頭ではわかっている。
でも、体はすでに次の形も覚え始めている。
その状態でライブをすれば、
振りや立ち位置、
歌割りのミスが起きることはある。
もちろん、ステージに立つ以上、
間違えない方がいい。
見に来た客にとっては、
その日見たものがすべてである。
裏でどれだけ新体制の準備をしていても、
目の前のライブが甘ければ、
それは甘く見える。
そこは言い訳できない。
ただ、ミスが起きやすい構造にはなっている。
今の形を保ちながら、
次の形を身体に入れる。
これは単に、覚える量が増えたという話ではない。
同じ曲の中に、
二つの正解が存在している状態である。
しかも、客席から見えるのは
裏側の負荷ではない。
少しズレた振り。
迷った立ち位置。
一瞬遅れた歌い出し。
見えるのは、努力ではなく粗である。
移行期の残酷さは、そこにある。
「集大成」という言葉の重さ
この期間、
アイドル側はよく言う。
現体制で最高のライブを見せたい。
今の形の集大成を見せたい。
最後までこの体制を大事にしたい。
その言葉は、たぶん本心だと思う。
今まで作ってきたものを、
雑に終わらせたいアイドルはいない。
今のメンバーで見せられる景色を、
最後までちゃんと残したい。
その気持ちはわかる。
ただ、その言葉はかなり重い。
なぜなら現実には、
現体制だけに集中できる状態ではないからである。
新体制の練習がある。
新メンバーとの合わせがある。
新しいフォーメーションがある。
新しい歌割りがある。
覚えることが増えている。
意識も分散している。
それでも、現体制で決まっているライブはある。
本数もある。
やれるライブは限られている。
だから、一つひとつを大事にしたい。
しかし、大事にしたいことと、
実際に最高値を出せることは別である。
現体制の集大成を掲げながら、
現体制だけに集中できない。
ここに移行期の矛盾がある。
言葉としては正しい。
でも、構造としてはかなり厳しい。
熱量があっても、最高とは限らない
実際に、
現体制の集大成を掲げたライブを見てきた。
新メンバー加入発表から、
お披露目までの一か月。
そのちょうど半分くらいが
過ぎた時期のライブだった。
メンバーの熱量はあった。
そこは間違いない。
今の体制をちゃんと見せようとしていることも、
この期間を雑に流そうとしていないことも、
ステージから伝わってきた。
ただ、最高のライブが見られたかと
言われると、難しいところだ。
ミスがあった。
メンバーのアクシデントもあった。
細かい揺れもあった。
気持ちは見えた。
でも、集大成という言葉に見合う
完成度だったかと言えば、
正直そこまでは届いていなかった。
そこで改めて思った。
やはり、この移行期は難しい。
現メンバーには熱量がある。
でも、熱量だけではライブは完成しない。
気持ちが入っていることと、
最高のパフォーマンスが出ることは別である。
頑張っていた。
それは本当である。
でも、最高だったか。
そこは別の話である。
ここは少し冷たく分けた方がいい。
熱量は大事である。
でも、熱量は免罪符ではない。
移行期で大変だった。
新体制の準備もある。
覚えることも多い。
アクシデントもあった。
それは理解できる。
ただ、その日のライブに来た人にとっては、
その日のライブがすべてである。
事情は見えない。
見えるのはステージである。
だからこそ、
「最高を見せたい」と言うなら、
その言葉に見合うものを見せる必要がある。
今日しか見られない人がいる
もちろん、まだラストまでは時間がある。
お披露目までの期間も残っている。
現体制でのライブも、まだいくつかある。
だから、最終日までに仕上げていく。
最後のライブで最高を見せる。
そういう考え方もあると思う。
ただ、それは全員にとっての時間ではない。
残りの期間で、もう都合がつかない人もいる。
仕事がある。
家庭がある。
遠征の都合がある。
お金の都合がある。
その人にとっては、
今日のライブが現体制の見納めかもしれない。
最終日に最高を見せるつもりだったとしても、
今日しか来られない人には関係がない。
今日来た人にとっては、
今日がその体制の集大成であってほしい。
ここが難しい。
アイドル側は、
最終日に向かっているのかもしれない。
でも、オタク側は必ずしも
最終日にいるわけではない。
今日のライブを見に来た人は、
今日の最高を見に来ている。
だから、今を全力で見せられないなら、
今ライブに来ている人の気持ちはどこへ行くのか、
と思ってしまう。
次を最高にするための準備も大事である。
でも、今を最高にすることも
同じくらい大事である。
むしろ、
今の体制を掲げてステージに立っている以上、
まず求められるのは今である。
最終日だけが、現体制ではない。
今日のライブも、現体制である。
この当たり前のことが、
移行期には少し見えにくくなる。
オタクは、最後を見ながら次を待っている
難しいのは、
アイドル側だけではない。
オタク側も揺れる。
今の体制はもうすぐ終わる。
このメンバーでのライブは、
あと何回かしかない。
そう思うと、
行かなければという気持ちになる。
この歌割りも、
この立ち位置も、
この曲の見え方も、
もうすぐ変わってしまう。
だから見る。
だから記憶しておこうとする。
それは自然な感情である。
一方で、新体制への期待もある。
新メンバーが気になる。
お披露目の日が楽しみ。
グループがどう変わるのかを早く見たい。
その気持ちも自然である。
ただ、この二つが同時にあることで、
現体制のライブはかなり複雑になる。
最後まで見届けたい。
でも、もう次を待っている。
今のメンバーを支持したい。
でも、新メンバーも気になる。
現体制を大事にしたい。
でも、お披露目の日の方が本番のように感じる。
ここに、オタク側の残酷さが出る。
口では、
現体制を最後まで見届けたいと言う。
でも実際には、
新メンバーのお披露目日に
照準を合わせている人もいる。
今のライブを見ながら、
次の体制のことを考えている人もいる。
ステージには今のメンバーしかいない。
それでも客席の視線は、すでに割れている。
移行期のライブは、
最後のライブでありながら、
次の体制の前座にも見えてしまう。
それはかなり残酷である。
もちろん、
オタクが新体制に期待することは悪くない。
期待されない新体制の方が厳しい。
ただ、その期待は、
現体制の残り時間を少しずつ削っていく。
まだ終わっていないものが、
すでに過去形で見られ始める。
ここに、
メンバーチェンジ移行期の寂しさがある。
新体制の準備で、今がぼやけること
新体制の準備は必要である。
それは当然だ。
新メンバーを迎える以上、
練習しなければならない。
フォーメーションを作らなければならない。
歌割りも整理しなければならない。
お披露目の日に向けて、
一定の完成度まで持っていかなければならない。
そこを軽く見るつもりはない。
ただ、その準備によって、
今のライブがぼやけるなら、
それはかなり寂しい。
次を最高にするために、
今が薄くなる。
これは移行期として、
一番見たくない形である。
新体制の成功は大事である。
でも、今ステージに立っているのは現体制である。
今チケットを買っている人がいる。
今予定を合わせて来ている人がいる。
今の体制を見納めるつもりで来ている人がいる。
その人たちにとって、
新体制の準備は理由にはなっても、
満足の代わりにはならない。
「次までには仕上げます」
では足りない。
今見たいのだ。
今の体制で、
今の最高を見たいのだ。
だから個人的には、
残り少ない現体制ライブの前のレッスンは、
できるだけ今に向けてほしいと思う。
新体制を捨てろ、
という話ではない。
ただ、現体制でライブをする以上、
まず現体制のライブを守ってほしい。
未来のために現在が軽く見えるなら、
その変化は少し寂しい。
良い時も悪い時も見てきた
お披露目の日に、新体制がどう見えるのか。
それはもちろん気になる。
ただその前に、
現体制の残りのライブで、
本当に今を出し切れるのか。
今はそちらを見たい。
良い時も悪い時も見てきた。
噛み合った日も見てきた。
少し崩れた日も見てきた。
熱量だけで押し切った日も、
細部まできれいに揃った日も見てきた。
だからこそ、
今の体制で積み上げてきた努力や苦労を、
最後にちゃんとステージで見せてほしい。
気持ちはある。
それは伝わっている。
でも、
気持ちだけではなく、
ステージの完成度まで含めて、
文句なしに最高だったと言わせてほしい。
新体制の準備は大事である。
ただ、
今ステージに立っているのは現体制である。
最終日だけが、現体制ではない。
今日のライブも、現体制である。
残り数回のライブで見たいのは、
未来への準備ではない。
今の体制が、
今の体制として出せる最高である。
思っているのは、
それだけだ。
