思い出を物語にする(#シロクマ文芸部)
物語を書き終えた瞬間、はらりと涙がこぼれた。
あの頃、無意識に抱えていた悲しみや寂しさが、ようやく言葉になり、清らかに昇華されたのだと、その涙が教えてくれた。
2003年の夏。
我が家ではMダックスのララが出産を控えていた。
獣医さんやペットサロンのオーナーからさまざまな助言を受け、ララは無事に4匹の子犬を産んだ。そのうち唯一のメスだったポロンを我が家に残し、3匹のオスたちは知り合いの家へ里子に出した。
この時の経験が、今年1月から書き始めた連載『初めての保護猫』の原点になっている。
小説では75歳の一人暮らしをしている高齢男性が、ある日衰弱した野良猫を保護することから始まる。その猫は猫エイズに感染していて5匹の子猫を身ごもっていた。
書き進めていくうちに、ポロンが生まれた日の記憶が鮮やかに蘇った。
物語の中で最初に産まれた初子と同じように、仮死状態で生まれてきたのがポロンだった。
それから20歳になる年まで、我が家のアイドルでいてくれたポロン。
18歳を過ぎた頃から、いつ亡くなってもおかしくない状態になっていた。心の準備は十分できていた。人間より先に天に召されるのは承知の上。最後まで一緒にいてあげたい。それだけを考えて、なるべく留守にする時間を減らした。
最後の瞬間はあっけなかった。眠るように静かに、そっとポロンは逝ってしまった。
心の準備はできていた。
いつ逝ってもおかしくない状態だった。
「うちの子は20歳まで生きたのよ」が自慢だった。
涙は流れなかった。
それよりも、天命を全うしたポロンのことが誇らしく、部屋にポロンの写真を飾った。スマホの待ち受けもポロンにした。
それから半年間で物語を書き終え、1冊の本になった。
『The Gift of Life―ある保護猫との日々』
猫を巡る一人の高齢男性の癒しと再生の物語だ。
自分で物語を書きながら、私自身も癒されていた。
そして、再生の光に導かれているように感じた。
不意に涙がこぼれていた。
