ターゲット欄に「佐藤」って書こうとしてペン止まった41歳が、半年前の自分の顔を書き直した話
おい、ターゲット欄に「40代男性」って書いて満足しとるワレへ
おい、そこでターゲット欄に「40代男性・副業意欲ある層」とか書いて、保存ボタン押したワレ。
そうや、お前や。
「これでターゲット決まったわ」やと?
「あとは内容を詰めるだけや」やと?
「……今日はもうここまでにして、明日からまた書き始めよ」……やと?
甘いなぁ〜……アマアマや!!
お前のそのターゲット欄に書いてある「40代男性」、それは客やない。
ただの人口統計や。
人口統計に向かって記事書いて届くなら、国勢調査の冊子が今頃ベストセラーになっとるわ。
俺自身が「紙に1人書け」言うた
ちょっと聞け。
前に、俺はここで「紙に1人だけ、助けたい相手を書け」言うた。テーマを3回張り替えた末に、やっと辿り着いた話や。
書いた本人がやらんで誰がやる、と思て、俺もそれをやってみたんや。
机に紙を置いた。ペンを持った。
「佐藤」と書こうとした。
ペンが止まった。
3秒くらい止まった。
書けへんかった。佐藤が誰か分からんかった。
しゃあないから、ちょっと枠を広げて、こう書き直した。
41歳・無職・貯金0・ローン返済あり
書いた瞬間、紙の上に俺自身の顔が映った。
……いや、待て。「俺自身」やのうて、もうちょっと正確に書く。
紙の上に映ったのは、ブランドの靴をピカピカに磨いて、デート前に鏡見て「俺いけてるやろ?」って目で問いかけとった、20年前の俺やった。
そっから今までの全部が、いっぺんに視界に戻ってきた。
20代の俺は、神室町の空きテナントやのうて、神戸三宮の道で見栄張っとった
紙に書いた瞬間に戻ってきた絵を、ちょっとお前に見せたる。
20代前半。
ブランド物の服。ブランド物の靴。デートと飲み会はフル装備。
口には出さんで。「俺いけてるやろ? 俺のこだわり見てくれ!」って、目だけで言うてた。鏡の前で襟立てて。
財布の中身? 空っぽや。
でも俺の手には魔法のカードが握られとった。クレジットカード。
ピッてやれば、その日のデートのコース代も、靴も、服も、全部その場で消える。レシートだけが薄っぺらく財布に増えていく。
その瞬間は気持ちええ。
ほな翌月、請求書という分厚いブーメランが郵便受けに帰ってくる。
最初は「来月の給料で払えばええわ」や。
次の月、足らん。リボに切り替える。
その次の月、今度はコンビニのATMでキャッシング枠から1万引き出して、その金で次のデートの靴を磨きに走っとる。
いや、靴は磨かんでええんや。新品買うたんやから、まだピカピカや。
でも俺は走った。意味もなく。次の見せ場を作るために。
下り坂を、見栄を背負って、加速で転がっとった。
財布の中の請求書だけが厚くなり、見た目だけが派手になっていく。
気づいたら借金が積み上がっとった。
そんで「一発でひっくり返す」言うて、甘い投資話に乗った。
さらに借金が増えた。
これが20代前半の俺や。
大学中退して地元帰って、母親に泣かれて、5年かけて返した
借金、現実逃避だけは上手いから、崖の下に落ちるまで気づかへん。
落ちて初めて、ようやく顔を上げる。
大学中退して、地元帰って、母親に泣かれた。
「あんた、何しに大阪行ったん」って、台所で泣かれた。
情けなくて、惨めで、その日の晩飯の味は今も思い出せん。
5年かけて返した。
手取り15万の和食の料理人の仕事して、コツコツ返した。
「もう二度とやらん」って自分に言うた。
……
……ここで終わっとったら、ええ話やったんや。
5年かけて借金返したその男な、30歳になった頃に、貯金ゼロのまま新車のディーラーに座って300万のローン用紙にサインしとんねん。
ハンコ押す手、震えとらんねん。
慣れた動きで押しとんねん。
「今度は車のローンや、あの時のクレカとは違う」言うて、自分に言い訳しながらな。
新車の鍵もろて、ピカピカのボディ眺めて、また「俺いけてるやろ」って顔しとった。
そんで気づいたらな、その男、競輪場のスタンドで「次の3レースで取り返す」言うとった。
「一発でひっくり返す」
「次の3レースで取り返す」
「これ買うたら、人生変わる気がする」
20代と30代と、台詞だけ少し違うけど、全部おんなじ顔して言うとる。
ブランドの靴と、新車のドアハンドルと、競輪のオッズボードを、3つ並べて鏡みたいに眺めとる男や。
…….笑いどころやないかい! 笑えや このボケェ!!
……
……チッ。
なんやその顔。
「ああ、それは大変でしたね」みたいなピュアな目ぇ向けるんやめぇや。
そないな目ぇ向けられたら、こっちが必死こいて被っとる、見栄っ張り41歳の薄皮がベタベタに溶けてまうやろが。
次その顔したら、お前の家のクレカ明細を玄関先に張り出すぞ。
で、紙に書いて視界が戻った夜、俺はやっと気づいたんや
……
……ほんまのとこ言うとな。
紙の上に20年分の俺の顔が並んだ夜、ちょっとだけ手が止まった。
俺はずっと、AIの記事書いて、稼ぎ方の道筋を読者に渡そうとしとった。
「『Claude Code』でこう動かせ」
「『Obsidian』でこう貯めろ」
「『Git』でこう逃げろ」
道具の話を書いとった。
そら間違いやない。書いたら届く相手はおる。
せやけどな。
俺自身が一番救いたい相手は、Claude Code が宇宙語に見えるレベルのとこにおったんや。
PCすら持っとらんかもしれん。
毎月のクレカ明細を、月末に見ないようにしとる人間や。
リボの残高を、配偶者にも親にも言うてない人間や。
「今月もなんとか凌いだ」言うて、また何かを買って気を紛らわせとる人間や。
半年前の俺や。
そいつに「副業で月5万」とか「Claude Code で記事制作」とか渡しても、刺さらん。
そいつにまず渡さなあかんもんは、自分のクレカ明細の蓋を開ける勇気やった。
稼ぐ方法やのうて、家計簿の蓋を開ける勇気。
順番が逆やったんや。
……稼ぐより先に、まず自分の家計簿開け、やったわ。
今日の一釘
ええか。一個だけや。
今夜、お前のターゲット欄を開け。
そこに先月のお前のクレカ明細の合計額を、丸ごとそのまま、1行だけ書け。
先月のクレカ明細合計:◯◯◯,◯◯◯円
桁は伏せ字でええ。けど数字は嘘つくな。
リボの残高があるなら、そっちも書け。
リボ残高:◯◯◯,◯◯◯円
1人やない。1金額や。
その金額を見ながら、次の記事の1行目を書け。
「40代男性」やのうて、その金額の隣にいる人間に向けて書け。
それだけや。
最後に
俺は4ヶ月、稼ぐ方法をターゲットに渡そうとしとった。
違うかった。
俺と同じ穴のやつに、まず家計簿の蓋を開ける勇気を渡すんが先やった。
それが分かった夜、誰もおらん部屋で、俺は自分のクレカ明細を声に出して読み上げた。
……
……笑い飛ばそうとした。
ヒャハハ、こんなに使うたんかい、って茶化そうとした。
笑えへんかった。
ただ、薄暗い部屋で、自分の声だけが返ってきた。
それでええ。
それが始まりの音や。
