第89回 科研費 研究計画調書の「応募者の研究遂行能力および研究環境」の書き方を解説
科研費の研究計画調書において、「応募者の研究遂行能力および研究環境」は、多くの申請者が後回しにしがちな項目です。
しかし実際には、この項目は単なる「実績の羅列」ではなく、「この研究が本当に実現可能かどうか」を裏付ける重要な評定要素とされています。
本記事では、この項目の役割と、採択に近づくための書き方について整理します。
なぜこの項目が重要なのか
研究計画がどれだけ魅力的であっても、「実際に遂行できるのか」が明確でなければ、評価は伸びにくくなります。
審査者が見ているポイントは、突き詰めると次の一点に集約されます。
・この研究を、この申請者が、この環境で着実に進められるか
つまり、「研究内容の新規性や意義」だけでなく、「実現可能性の裏付け」が問われているのがこの項目です。
よくある誤解
この項目で多く見られるのが、次のような書き方です。
・論文数やインパクトファクターの列挙
・過去の受賞歴の羅列
・研究設備の説明のみ
このような申請は、十分な評価につながりにくい傾向があります。かつての申請書では、研究業績を網羅的に示す書き方でも一定の評価が得られていましたが、現在の研究計画調書では、そのままでは十分とは言えない場合が多いようです。
研究業績の数だけで評価される形になってしまうと、業績がまだ多くない研究者にとっては不利になりがちです。しかし実際の審査は、そのような単純な比較だけで行われているわけではありません。
また、受賞歴の羅列についても同様で、それ自体は重要な実績ではあるものの、「今回の研究をどのように遂行できるか」という点との関係が明確でなければ、十分な説得力にはつながりません。
さらに、研究設備の説明だけを書くケースも見られますが、設備が整っていることと、それを活用して研究を進められることとは必ずしも同じではありません。
近年では、大学連携研究設備ネットワークのように、所属機関に設備がなくても利用可能な環境が整備されています。そのため、「設備の有無」そのものよりも、「それをどのように活用するか」がより重視されています。
評価される書き方のポイント
この項目では、次の3点を意識して記述することが重要です。
① 本研究に関連する経験・実績
② 本研究を遂行するための具体的な能力
③ それを支える研究環境
特に重要なのは、それぞれが「本研究とどのようにつながっているか」を明確に示すことです。
研究遂行能力の示し方
単に業績を紹介するのではなく、「今回の研究にどのように活かされるのか」を示すことが求められます。
(悪い例)
・○○分野で論文を○報発表している
(良い例)
・○○手法を用いた研究を継続的に実施しており、本研究で用いる△△の解析について、基盤的な技術と知見を有している
このように、「実績」と「本研究とのつながり」を対応づけて記述することが重要です。
研究環境の書き方
研究環境については、「何があるか」を列挙するだけでなく、「それをどのように活用して研究を進めるか」を具体的に示すことが重要です。
・本研究に必要な設備・資源が確保されているか
・それらをどのように活用するのか
・不足する部分をどのように補うのか
さらに、専門外の機器や技術を本研究で用いる場合には、その実施体制を丁寧に説明することが求められます。
審査者は、「この申請者がその技術を実際に使いこなせるのか」という点も見ています。特に経験の少ない手法については、説明が不十分な場合、実現可能性に疑問を持たれる可能性があります。
そのため、
・誰がその技術を担当するのか(研究分担者・共同研究者)
・それぞれの役割は何か
・どのような連携で進めるのか
を明確に示すことも重要です。
(良い例)
・△△解析については本申請者も基礎的知識を有しているが、実施にあたっては当該手法に実績を有する研究分担者○○と連携し、データ取得および解析を分担して進める体制を整えている
このように、「適切な人材と連携して進める体制」が示されていると、実現可能性の説得力が高まります。
よくある弱点
不採択となりやすい申請には、次のような傾向が見られます。
・実績は示されているが、研究との関係が不明確
・研究環境の説明が抽象的
・「実施できるはず」という前提で記述されている
特に多いのは、「実績を示せば意図は伝わるだろう」と考えてしまうケースです。
しかし実際には、その実績が今回の研究にどのように活かされるのかを、明示的に記述することが求められます。言い換えると、実績が十分に多くない場合であっても、
・なぜこの研究を遂行できるのか
・どのように進める計画であるのか
が具体的に示されていれば、十分に評価される可能性があります。
おわりに
研究計画調書は、「意義のある研究内容を書く場」であると同時に、「評価される形で提示する場」でもあります。
その中で本項目は、
・研究の裏付け
・申請者に対する信頼性
・実行可能性
を支える重要な部分です。
研究内容と切り離して考えるのではなく、「この研究であるからこそ自分が適している、自分ならできる」と伝わるよう、一貫した形で記述することが、採択に近づくための鍵になると考えられます。
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