第112回 専用実施権と通常実施権とは何か―研究者が知っておきたいライセンスの違い―
前回の記事では、ライセンス(実施許諾)について解説しました。
特許を企業へ譲渡するのではなく、特許権を保有したまま利用する権利を与える仕組みです。
しかし実際のライセンス契約では、
専用実施権
通常実施権
という言葉が登場します。
少し難しく感じるかもしれませんが、共同研究や技術移転の場面では頻繁に出てくる概念です。
今回は、この二つの違いについて研究者向けに整理してみたいと思います。
どちらも「使う権利」である
まず共通している点から確認しておきます。
専用実施権も通常実施権も、
「他人の特許を利用する権利」
です。
つまりどちらもライセンスの一種です。
違いは、
その権利をどれだけ独占できるか
にあります。
通常実施権とは
通常実施権は、最も一般的なライセンスです。
例えば大学が特許を保有しているとします。
企業Aに通常実施権を許諾した場合、企業Aはその技術を利用できます。
しかし大学は同じ特許について、
企業B
企業C
企業D
にもライセンスを与えることができます。
つまり通常実施権は、
「使ってよいが独占ではない権利」
です。
企業側からすると競合他社も同じ技術を利用できる可能性があります。
一方で大学側から見ると、複数の企業へライセンスできるため、技術の普及や収益機会の拡大につながります。
専用実施権とは
専用実施権はより強い権利です。
例えば企業Aに専用実施権を設定した場合、その範囲では企業Aだけが特許を利用できます。
たとえ大学(特許権者)であっても、その範囲では自由に実施できなくなります。
また、他の企業へ同じ権利を与えることもできません。
つまり専用実施権は、
「独占的に利用できる権利」
です。
企業にとっては大きな魅力があります。
自社だけがその技術を活用できるため、事業化を検討しやすくなるからです。
なぜ企業は独占を求めるのか
研究者の中には、
「技術を広く使ってもらった方が良いのではないか」
と思う方もいるかもしれません。
確かにその考え方もあります。
しかし企業は事業として技術開発を行います。
製品化までに数億円、場合によっては数十億円以上の投資が必要になることもあります。
そのとき、
「競合他社も同じ技術を自由に使えます」
と言われれば、投資判断は難しくなります。
だからこそ企業は独占的な権利を求めることがあります。
専用実施権は、企業が安心して事業化に取り組むための仕組みとも言えます。
大学はなぜ慎重になるのか
一方で大学側には別の考え方があります。
もし独占的な権利を与えた企業が技術を活用しなかった場合、その特許は社会で利用されないままになってしまいます。
また、他の企業へライセンスする機会も失われます。
そのため大学は、
本当に事業化する意思があるのか
開発能力があるのか
適切な対価が支払われるのか
といった点を慎重に検討します。
専用実施権は強力な権利だからこそ、大学側にも慎重な判断が求められます。
研究者が知っておくべき理由
実際の契約交渉は知財部門やTLOが担当することが一般的です。
しかし研究者自身も専用実施権と通常実施権の違いを理解しておくことには意味があります。
共同研究先との議論や技術移転の検討において、
「企業はなぜ独占を求めているのか」
「大学はなぜ慎重なのか」
を理解できるようになるからです。
研究成果を社会実装する過程では、研究そのものだけでなく、その成果をどのような形で社会へ届けるかも重要になります。
おわりに
専用実施権と通常実施権は、どちらも特許を利用するためのライセンスです。
しかし、
通常実施権は非独占的な利用権、
専用実施権は独占的な利用権、
という大きな違いがあります。
技術移転や産学連携を考えるうえで、この違いを理解しておくことは決して無駄ではありません。
研究成果を社会へ届けるための仕組みの一つとして、知っておいていただければと思います。
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