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第106回 人間関係は採択に影響するのか?―「知られている研究者」は有利なのか―

ある程度経験を積むと、科研費の審査について、多くの研究者が一度は次のように感じます。

「見覚えのある名前ばかりが採択されている気がする」

「人間関係が、採択に影響しているのではないか」

採択結果に目を通すと、見覚えのある名前が並んでいる。学会でよく見かける研究者や、著名な研究室のPIが含まれている。

こうした状況が続くと、「審査は本当に公平なのか」という疑問が生じるのは自然なことです。

本稿では、この問題を感覚的な印象ではなく、冷静に分析してみたいと思います。



利害関係の排除は完全ではない

科研費では、利害関係がある場合には審査から除外される仕組みが設けられています。ただし、その多くは自己申告に依存しています。

そのため、学会での接点や緩やかな人的ネットワークなど、「グレーな関係」を完全に排除することは現実的に困難です。

したがって、完全にフラットな状態での審査は原理的に成立しません。


軽い接点は影響するのか

では、飲み会で一度話した、名刺交換をした、そのような接点は評価に影響するのでしょうか。

この点については比較的はっきりしています。

その程度の接点が評価を左右することは、通常ほとんどありません。

審査において問われるのは、

・研究の目的と意義
・実現可能性
・分野内での位置づけ

といった研究内容に関する要素です。

単なる対面経験は、これらの判断に直接的な情報をほとんど与えません。


それでも差が生まれる理由

一方で、「よく知られている研究者が有利に見える」という感覚も無視できません。

この現象の背景にあるのは、人間関係そのものというよりも、

事前に名前や研究内容を知られているかどうかによる違いです。

①理解のしやすさ

一定の業績を持つ研究者については、

・過去の研究内容
・研究の方向性
・分野内での位置づけ

がある程度共有されています。

その結果、審査員は前提知識をもとに申請書を理解できる状態にあります。

これは、理解に要する負担の差として現れます。

②評価の出発点

初見の申請書は、「この計画は実現可能か」という慎重な姿勢から読まれます。

一方で既知の研究者の場合は、一定の信頼を前提に読み始められます。

この出発点の違いは、評価の過程に影響を与えます。

③曖昧さの解釈

申請書には必ず不確実な部分が含まれます。

その際、

  • 情報が少ない場合は、書かれている内容だけを頼りに慎重に評価される

  • 研究者の背景が共有されている場合は、書かれていない部分も含めて補いながら理解される

という違いが生じ得ます。


審査構造そのものが与える影響

この点は別稿でも述べましたが、科研費審査は同一分野の研究者による相互評価を基本としています。

この構造のもとでは、

・分野内で既に知られている研究者
・研究の位置づけが共有されているテーマ

ほど理解されやすくなる傾向があります。

これは「コネ」とは異なるものの、結果として認知の差を通じて評価に影響し得る構造的要因といえます。個々の審査員の恣意ではなく、制度に内在する性質といえるでしょう。


学会活動や受賞歴はどうか

この点に関連して、よく指摘されるのが

「学会参加や学会賞は有利に働くのではないか」

という問題です。

結論としては、

一定の意味で有利に働く可能性はあります。

①学会参加の効果

学会での活動は、

・研究内容を知ってもらう機会
・分野内での存在の可視化
・研究の位置づけの共有

といった役割を果たします。

その結果として、「この研究者は何をしている人か」が共有されやすくなります。

これが審査時の理解のしやすさにつながります。

②学会賞の意味

学会賞は、

・分野内で一定の評価を受けている
・研究の質が担保されている

というシグナルとして機能します。

審査員にとっては、判断の補助となる情報の一つです。


本質的な整理

ここまでを踏まえると、この問題は次のように整理できます。

・単純な意味での「コネ」が採択を決めているとは言いにくい
・しかし、「既に知られているかどうか」は評価の前提に影響する
・学会活動や受賞は、その「知られている状態」を形成する要因になり得る

つまり影響しているのは、

人間関係そのものではなく、可視化された実績と認知の蓄積といえます。


それでも残る不均一性

もっとも、このような認知の差は、

・現行制度で完全に排除することが難しい
・無意識のうちに評価に影響し得る

という意味で、一定の不均一性を生みます。

審査が大学教員による相互審査により行われる以上、完全に同一条件での評価は現実的ではありません。


おわりに

人間関係が採択を決めているわけではありません。
しかし、「どれだけ知られているか」は、評価の出発点に影響を与えます。

その差は、

・理解の速さ
・信頼の初期値
・曖昧さの解釈

といった形で現れ、結果に影響し得ます。

しかし、

「人間関係がないから不利だ」

と考えるのではなく、

「自分の研究が、初見の審査員にも正しく理解される状態をどのように作り上げるか」

と考えるべきだと思います。

つまり、本質は人間関係の有無ではなく、

前提知識がなくても伝わる申請書の構造・構成を作れているかどうか

にあります。この視点に立つことで、取るべき戦略は大きく変わります。

外部資金ジャパン

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