第117回 「書いたほうがよいが、書き方が難しい」―科研費申請における「社会との関係」の整理―
科研費の申請書を作成する際、「社会的意義をどのように書くか」で手が止まる、という経験は多くの方に共通しているのではないでしょうか。
一方で、研究計画調書の様式を確認すると、
「社会的意義」や「社会に果たす役割」といった項目が、明示的に設けられているわけではありません。
実際に求められているのは、学術的背景や独自性、研究の位置づけなど、主として学術的な観点です。
それでも「書いたほうがよい」と感じる理由
他方で、審査の観点(審査の手引き)に目を向けると、学術的重要性のなかで、研究の波及効果、すなわち学術や社会への広がりが評価対象とされていることが分かります。
そのため、
明示的な欄はないものの
何らかの形で触れておいたほうがよい
と感じられるのは、自然なことだと思われます。
ただし、ここで悩みやすい
問題は、その「書いたほうがよい」という感覚に対して、
具体的に何を書けばよいのかが分かりにくい点にあります。
特に基礎研究の場合、
直ちに応用に結びつくとは限らない
社会との直接的な関係が見えにくい
といった事情もあり、記述に迷う場面が生じやすいように思われます。
よく見られる書き方とその難しさ
こうした状況の中で、
将来的な応用可能性に言及する
医療や産業への貢献を示唆する
といった書き方が選ばれることも少なくありません。
ただし、根拠が十分でない場合には、
かえって研究の焦点が見えにくくなることもあり、慎重さが求められるところです。
視点を少し変えてみる
ここで一度整理してみると、審査で見られているのは、
必ずしも「すぐに役立つかどうか」ではなく、
この研究によって、次に何が可能になるのか
という点であると捉えると理解しやすくなります。
記述の一つの考え方
社会的意義について記述する際には、単に要素を並べるのではなく、研究の成果がどのように展開していくかという“流れ”として整理することが重要です。
具体的には、
① 明らかになること → ② そこから生まれる広がり → ③ 長期的な位置づけ
という順で記述すると、論理的に一貫した説明になります。
① 何が明らかになるのか(出発点の明確化)
まず、本研究によってどのような知見が得られるのかを明確にします。
ここでは、単に「新しい」という表現にとどめず、何が、どのレベルで分かるようになるのかを具体的に示すことが重要です。
既存研究との関係を意識しながら、
・どこが未解明だったのか
・本研究でどこまで踏み込めるのか
を整理することで、「この研究が何を変えるのか」という出発点が明確になります。
② どのような広がりがあるか(研究の連鎖の提示)
次に、その知見が他の研究や分野にどのような影響を与えるかを示します。
ここで重要なのは、「役に立つかどうか」を直接的に述べることではなく、
この知見によって、どのような新しい研究や理解が可能になるのか
を示すことです。
すなわち、研究成果が単発で終わるのではなく、次の研究へと連鎖していく構造を描くことが求められます。
たとえば、
・他の未解決問題への展開
・異なる分野との接続
・新たな研究課題の創出
といった形で、「研究の流れがどのように動くか」を示すことがポイントになります。
③ 長期的な可能性(時間軸での位置づけ)
最後に、その研究がより長い時間軸の中でどのような意味を持つのかを示します。
ここでは、短期的な応用可能性に限定する必要はなく、
・学術的基盤としてどのように蓄積されるか
・将来的にどのような理論・技術につながりうるか
といった観点から、研究の位置づけを整理します。
過度に大きな主張をする必要はなく、むしろ、研究の蓄積がどの方向に効いていくのかを丁寧に示すことで、現実的で説得力のある記述になります。
このように、「知見の獲得 → 研究の連鎖 → 長期的な位置づけ」という因果の流れで整理することで、無理に社会的意義を強調しなくても、結果として波及効果が自然に伝わる構成になります。
おわりに
科研費の申請書において、「社会的意義」は明示的な記載項目ではありません。
しかしながら、研究の広がりや将来的な展開は、評価の一要素とされています。
そのため、
無理に「役に立つ」と表現するのではなく
研究がどのように展開していくかを、丁寧に言語化する
ことが、結果として説得力のある記述につながるのではないでしょうか。
外部資金ジャパン
外部資金ジャパンでは、科研費等の申請書添削サービスを提供しています。ご興味のある方は下記までお問い合わせください。
