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第111回 ライセンスとは何か―研究者が知っておきたい「特許を売らない」という選択―

研究成果が特許になったとき、

「この特許を企業に売る」

というイメージを持つ研究者は少なくありません。

しかし実際の技術移転の現場では、特許そのものを譲渡するよりも、「ライセンス(実施許諾)」という形が採られることが多くあります。

研究者にとっては、論文発表に比べると馴染みの薄い概念かもしれません。しかし、大学の研究成果を社会実装していくうえで、ライセンスは非常に重要な役割を果たしています。

今回は、ライセンスの基本的な考え方について整理してみたいと思います。



ライセンスとは「使う権利」を与えることである

特許権を取得すると、発明を独占的に実施できる権利を得ることになります。

そして特許権者は、その権利を他者に利用させることができます。

これがライセンスです。

例えば大学が特許を保有している場合、企業に対して

「この技術を利用してもよい」

という権利を与えることができます。

企業は特許そのものを取得するのではなく、その技術を利用する権利を得るわけです。

ライセンスとは、簡単に言えば「技術を使う権利を与える契約」と考えると理解しやすいでしょう。

特許の譲渡とは何が違うのか

ライセンスと混同されやすいものに、特許の譲渡があります。

特許を譲渡した場合、特許権そのものが相手方へ移転します。

つまり、大学が企業へ特許を譲渡すると、その特許は企業のものになります。

一方、ライセンスの場合は違います。

大学は特許権を保有したまま、企業に対して利用を認めます。

言い換えれば、

「権利そのものを渡す」のが譲渡、

「権利を使うことを認める」のがライセンスです。

大学の技術移転では、この違いを理解しておくことが重要です。

なぜライセンスという仕組みが使われるのか

研究成果が実際の製品やサービスとして社会実装されるかどうかは、研究段階では分かりません。

企業側には開発費や製造コスト、市場リスクがあり、大学側にも特許維持費や管理コストがあります。

そのため、特許そのものを譲渡するのではなく、まずライセンス契約を締結し、企業が一定の対価を支払いながら技術活用を進める形が採られることが少なくありません。

ライセンス契約の内容はさまざまですが、

  • 契約一時金

  • 年額の実施料

  • 売上に応じたロイヤリティ

  • 開発段階に応じたマイルストン収入

などが設定されることがあります。

大学側にとっては特許権を保持したまま技術移転を進められるという利点があり、企業側にとっても特許を買い取る場合と比べて柔軟に技術を導入できるという利点があります。

研究者がライセンスを理解する意味

ライセンス契約の交渉や契約実務は、通常、大学の知財部門やTLO(Technology Licensing Organization)が担当します。

そのため、

「研究者には関係ない」

と思われるかもしれません。

しかし実際には、

  • 共同研究

  • 特許出願

  • 技術移転

  • 大学発スタートアップ

などの場面で、ライセンスという考え方は頻繁に登場します。

また、企業との面談の中で、

「この技術はライセンス可能ですか」

という話になることもあります。

その際、ライセンスの基本的な仕組みを理解しているかどうかで、企業との議論の理解度は大きく変わります。

研究成果を社会実装する過程では、論文だけでなく知的財産も重要な役割を担っています。

その意味で、ライセンスは研究者にとって決して無関係な概念ではありません。

おわりに

ライセンスとは、特許そのものを売ることではありません。

特許権を保有したまま、他者に技術を利用する権利を与える仕組みです。

研究者は日々、研究成果の創出に取り組んでいます。しかし、その成果が社会で活用されるためには、論文発表だけでなく、知的財産や技術移転の仕組みも重要になります。

ライセンスは、その橋渡しを担う代表的な仕組みの一つです。

研究成果の出口戦略を考える際には、論文や学会発表だけでなく、「どのように社会へ届けるのか」という視点からライセンスについて考えてみることも重要ではないでしょうか。

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