見出し画像

第113回 通常実施権と独占的通常実施権の違いとは何か―研究者が知っておきたいライセンス契約の実務―

前回の記事では、専用実施権と通常実施権について解説しました。

研究者の中には、

「通常実施権は分かったが、独占的通常実施権とは何が違うのか」

と感じた方もいるかもしれません。

実際、大学の技術移転や共同研究の現場では、専用実施権ではなく独占的通常実施権が用いられることもあります。

名称は似ていますが、通常実施権と独占的通常実施権では企業にとっての価値も、大学にとっての意味合いも大きく異なります。

今回は、その違いについて整理してみたいと思います。



まず通常実施権をおさらいする

通常実施権とは、特許権者から技術の利用を許可してもらう権利です。

例えば大学が特許を保有している場合、企業Aに通常実施権を許諾すると、企業Aはその技術を利用できるようになります。

しかし同時に、大学は企業Bや企業Cにもライセンスを与えることができます。

つまり通常実施権は、

「利用はできるが独占はできない権利」

です。

企業から見ると、競合他社も同じ技術を利用できる可能性があります。

独占的通常実施権とは何か

独占的通常実施権は、特許法上の権利類型ではなく、契約によって「特定の範囲では他社にライセンスしない」ことを約束した通常実施権です。

例えば大学が企業Aに独占的通常実施権を付与した場合、その契約範囲においては企業Aだけが技術を利用できます。

大学は企業Bや企業Cへ同じ範囲のライセンスを与えません。

企業Aから見ると、実質的に独占的な利用が可能になります。

そのため企業にとっては非常に魅力的な契約形態です。

専用実施権との違い

ここで疑問が生じます。

「それなら専用実施権と同じではないか」

という点です。

確かに実務上の効果は似ています。

しかし法的には大きな違いがあります。

専用実施権は特許法で定められた権利であり、特許庁への登録によって効力が生じます。

一方、独占的通常実施権は契約によって成立する権利です。

つまり、

専用実施権は法律上認められた独占的な権利、

独占的通常実施権は、契約によって独占性を付与した通常実施権、

という違いがあります。

そのため、両者は実務上似た効果を持ちながらも、法的な位置づけは異なります。

実務では、契約内容を柔軟に設計しやすいことから、独占的通常実施権が利用されることもあります。

また、専用実施権では特許権者自身も設定した範囲で実施することができなくなります。

一方、独占的通常実施権では、その範囲で特許権者自身が実施できるかどうかも契約によって定めることができます。

このように、独占的通常実施権は契約による柔軟な設計が可能である点も特徴の一つです。

なぜ企業は独占を求めるのか

企業が新技術を事業化するためには、下記のような多額の投資が必要になります。

・製品開発
・製造設備
・品質管理
・販売体制の構築

場合によっては承認申請や規制対応も必要です。

そのような投資を行うにもかかわらず、

「競合他社も同じ技術を使えます」

となれば、企業は慎重になります。

だからこそ企業は独占的な利用権を求めることがあります。

独占的通常実施権は、企業が安心して事業化への投資を行うための後押しとなる仕組みとも言えます。

大学側が考えなければならないこと

一方で、大学側には別の視点があります。

独占的な権利を与えた企業が十分に事業化を進めなかった場合、その技術は社会で活用されないままになる可能性があります。

また、他の企業へのライセンス機会も失われます。

そのため大学は、

  • 本当に事業化能力があるのか

  • 十分な開発投資を行うのか

  • 技術を社会実装する意思があるのか

といった点を慎重に確認します。

独占的通常実施権は企業にとって魅力的ですが、その分、大学側にも適切な判断が求められます。

研究者が知っておくべき理由

ライセンス契約の交渉は知財部門やTLOが担当することが一般的です。

しかし研究者自身も通常実施権と独占的通常実施権の違いを理解しておく意味があります。

企業との面談や共同研究の場面では、

「独占的に利用したい」

という要望が出てくることがあります。

そのとき、

なぜ企業が独占を求めるのか、

大学はなぜ慎重になるのか、

を理解していると、技術移転に関する議論もより深く理解できるようになります。

研究成果を社会へ届けるためには、研究だけでなく知的財産の仕組みを知ることも重要かと思います。

おわりに

通常実施権と独占的通常実施権は、どちらも特許を利用するためのライセンスです。

しかし、

通常実施権は他社にもライセンスできる非独占的な権利、

独占的通常実施権は契約によって独占的な利用関係を実現した通常実施権、

という違いがあります。

研究成果の社会実装や産学連携を考えるうえで、こうした違いを理解しておくことは重要です。

研究成果を生み出すだけでなく、それをどのように社会へ届けるのか。その視点を持つことも、現代の研究者に求められています。

外部資金ジャパン

外部資金ジャパンでは、外部資金獲得のための申請書作成支援を提供しています。ご興味のある方は下記までお気軽にお問い合わせください。


いいなと思ったら応援しよう!