第110回 科研費に採択されたことがない、あるいは最近採択されていない研究者向け―申請書以前に見直すべきこと―
科研費の結果が公表されるたびに、
「今年も不採択だった」
「何年も申請しているが採択されたことがない」
という声を耳にします。
そのようなとき、多くの研究者は申請書の文章や構成を見直そうとします。しかし、長期間採択に至っていない場合、問題は申請書そのものではなく、その前段階にあることも少なくありません。
また、過去に採択経験がある先生であっても安心はできません。研究を取り巻く環境や学術動向は常に変化しています。かつての成功体験が、現在の研究環境とのズレを生んでいることもあります。
今回は、科研費に採択されたことがない先生や、最近採択から遠ざかっている先生に向けて、申請書以前に見直しておきたいポイントについて考えてみたいと思います。
自身の研究は現在の学術状況の中でどのあたりに位置づけられているか
研究助成は本来、流行だけで評価されるべきものではありません。
しかし、研究計画を示す以上、現在の学術状況との関係を整理することは重要です。
関連分野ではどのような研究が進展しているのか。何が明らかになり、何が未解決なのか。そして自身の研究はどこに独創性や先駆性があるのか。
こうした整理が不十分な場合、研究内容そのものに価値があっても十分に伝わらないことがあります。
また、近年の研究成果や自身の最新データが研究計画に反映されているかも確認したいところです。長年同じテーマに取り組んでいる場合、自分では発展しているつもりでも、第三者から見ると過去の研究の延長に見えてしまうことがあります。
研究テーマそのものを変える必要はありません。しかし、現在の学術状況の中で自身の研究をどのように位置づけるのか(どのあたりに位置づけられるのか)を改めて整理することは重要ではないでしょうか。
その研究は本当に自分がやりたい研究か
少し意外かもしれませんが、この問いも重要です。
研究費を獲得したいという思いから、採択されやすそうなテーマや周囲から期待されているテーマに寄せてしまうことがあります。
しかし、本当に取り組みたい研究であれば、
なぜその研究が必要なのか
何を明らかにしたいのか
どのような困難が予想されるのか
について自然と深く考えることになります。
熱意そのものが評価されるわけではありません。しかし、研究に対する問題意識や当事者意識は、研究計画の具体性や説得力として表れます。
審査者は応募者と直接会うことはありませんが、研究計画調書を通じて研究への理解の深さを感じ取っています。
だからこそ、「本当にこの研究をやりたいのか」という原点を見つめ直してみることにも意味があります。
研究手法はアップデートされているか
研究テーマに問題がなくても、研究手法や分析手法が長年変わっていないことがあります。
もちろん、従来の手法が悪いわけではありません。しかし近年は分析技術やデータ解析技術が急速に発展しています。
そのため、
「以前からこの方法で研究しているから」
という理由だけで同じ手法を使い続けていると、研究計画の発展性が十分に伝わらなくなることがあります。
また、
「最新の分析機器がない」
「自分の大学ではその手法が使えない」
という声を聞くこともあります。
しかし現在では、共同利用機関の設備を利用したり、他大学の研究者と連携したりすることで、新しい手法を導入できる機会も増えています。
使えないことを嘆くだけでは状況は変わりません。
どうすれば使えるのか、誰と協力すれば実現できるのかを考えることも研究者に求められる重要な視点ではないでしょうか。
第三者に見てもらうことをためらわない
長期間不採択が続いている場合、見落とされやすいのが第三者からのフィードバックです。
研究者は専門家であるがゆえに、自分の研究を客観的に見ることが難しくなることがあります。
自分では十分に説明しているつもりでも、第三者には伝わっていないことがあります。
特に何年も同じような結果が続いている場合、自分一人で修正を繰り返すだけでは限界があるかもしれません。
このようなときには、第三者の意見に耳を傾けることも必要です。
もちろん、研究計画調書は営業秘密に近い情報です。未発表のアイデアや研究戦略が含まれている以上、誰にでも見せればよいわけではありません。
信頼できる相手を選んだうえで、積極的にフィードバックを受けることが重要です。特に何年も同じような結果が続いている場合には、自分では気づいていない課題が残っている可能性もあります。
科研費だけにこだわりすぎない
科研費は日本の研究費制度の中核を担う重要な競争的資金です。
しかし、研究助成は科研費だけではありません。
民間財団による助成金や各種研究助成事業など、多様な資金獲得の機会が存在しています。
科研費で不採択になったからといって、他の研究助成でも評価されないとは限りません。
また、申請書を書く経験そのものが研究を整理する機会にもなります。
科研費だけにこだわらず、さまざまな研究助成に挑戦してみることも重要ではないでしょうか。
おわりに
科研費が採択されないと、多くの研究者は申請書の文章や表現を改善しようとします。
しかし実際には、
研究の位置づけ
問題意識の深さ
研究手法
フィードバック環境
など、申請書の外側にある要因が影響していることも少なくありません。
申請書は研究活動そのものではなく、研究活動を他者に伝えるための手段です。
だからこそ、長期間採択に至っていない場合には、申請書だけでなく、その土台となる研究テーマや研究環境にも目を向けてみることが重要ではないでしょうか。
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