第142回 大学での研究には特許権の効力が及ばない?―「試験又は研究のための実施」を正しく理解する―
研究者の中には、
「大学で行う研究なら特許を気にしなくてもよい」
という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。
実際、日本の特許法には、「試験又は研究のためにする特許発明の実施には、特許権の効力は及ばない」という規定があります。
この条文だけを見ると、
「大学での研究はすべて自由に実施できる」
と思ってしまうかもしれません。
しかし、この理解は必ずしも正確ではありません。
今回は、大学研究と特許権の関係について整理してみます。
特許法第69条第1項
日本の特許法第69条第1項では、次のように規定されています。
「特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。」
つまり、「試験又は研究のためにする実施」に該当する場合には、特許権者の許諾を得ることなく特許発明を実施できます。
これは、科学技術の発展を妨げないために設けられている例外規定です。
もし研究目的であっても特許権者の許諾が必要であれば、新しい知見の創出や技術の検証が著しく制限されてしまいます。
大学の研究は原則として対象になる
大学で行われる基礎研究や学術研究は、通常、「試験又は研究」に該当します。
例えば、
特許技術の性能を評価する
新しい改良方法を検討する
再現実験を行う
学術論文を作成するための検証を行う
といった研究活動です。
このような目的で特許発明を実施する場合には、特許法第69条第1項が適用され、特許権侵害には当たりません。
そのため、大学における純粋な研究活動は、この規定によって保護されています。
「大学だから大丈夫」ではない
一方で、大学で行われている活動すべてが対象になるわけではありません。
例えば、
特許製品を製造・販売する
特許技術を利用した有償サービスを提供する
研究成果を事業として継続的に利用する
といった行為は、「試験又は研究」の範囲には含まれません。
また、企業との共同研究であっても、研究そのものが目的なのか、事業利用が目的なのかによって評価が異なる場合があります。
つまり、
「大学で実施している」という理由だけで特許権の効力が及ばなくなるわけではありません。
重要なのは、その実施の目的や態様です。
大学の産学連携では注意が必要
近年は、大学でも産学連携や共同研究が活発になっています。
企業との共同研究では、
将来的な製品化
技術移転
ライセンス
を前提として研究が進められることも珍しくありません。
このような場合には、研究段階であっても知的財産上の整理が重要になります。
大学の知財部門やTLO(技術移転機関)、特許事務所が関与する理由もここにあります。
研究者自身が細かな法解釈まで理解する必要はありませんが、
「特許は研究とは無関係」
という認識では、思わぬトラブルにつながるおそれがあります。
おわりに
「大学での研究には特許権の効力が及ばない」という説明は、完全な誤りではありません。
しかし、正確には、
「試験又は研究のための実施」に該当する範囲では、特許権の効力は及ばない
という理解が適切です。
大学の研究活動はこの制度によって支えられていますが、その適用範囲には限界があります。
特に共同研究や研究成果の社会実装が進む現在では、研究と知的財産の距離は以前よりも近くなっています。
研究者自身が細かな法解釈を身につける必要はありませんが、この制度の趣旨を知っておくことで、知的財産への理解はより深まるかと思います。
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