第95回 申請書は営業秘密に近い情報である—取り扱いに注意すべき理由
研究費の申請書は、多くの場合「提出して終わりの書類」として扱われがちです。
しかし、それは単なる書類ではなく、極めて価値の高い未公開情報の集合体といえます。
本稿では、申請書を「営業秘密に近いもの」として捉える視点と、その取り扱いにおける注意点について整理します。
申請書に含まれている情報
申請書には、次のような要素が含まれています。
問題設定
研究の方向性
予備的なデータや初期的知見
これらは単なる説明ではなく、研究の競争力そのものです。
特に、まだ論文や学会で公表されていない段階の内容であることを考えると、その価値は軽視できるものではありません。
「公然知られる」状態との関係
申請書には、将来的に特許出願につながり得る内容が含まれている場合があります。この点を踏まえると、情報の取り扱いは単なる研究上の配慮にとどまりません。
特許法29条1項1号では、「公然知られた発明」は新規性を失うとされています。ここでいう「公然」とは、不特定多数に広く公開されている状態に限られません。守秘義務のない者に知られた時点で、公然性が認められ得ると解されています。すなわち、知っている人数の多寡は本質的な問題ではありません。
申請書そのものは通常公開されず、体系的に蓄積される性質のものでもありません。しかし実務上は、
・添削のために、守秘義務のない第三者へ共有されうる
・相談過程で関係者以外に内容が伝わりうる
といった経路を通じて、意図せず「公然」に近い状態へ移行する可能性があります。
問題は公開の有無ではなく、情報がどのような条件で、誰の管理下に置かれているかです。
したがって重要なのは、情報がどの程度コントロールされた状態にあるかという点にあります。
提出前に「誰に見せるか」という問題
研究費申請において、第三者の視点を入れることは非常に有効です。
実際、多くの研究者が同僚や専門家にレビューを依頼しています。
申請書は、適切な第三者の視点を入れることで質が高まる一方で、
「広げるほどコントロールが効かなくなる」側面も持っています。
これはトレードオフの関係にあります。
質の向上と引き換えに、情報の流通範囲は広がる傾向にあります。
したがって重要になるのは、
提出前に「誰に見せるか」を意識的に選ぶことです。
外部の添削専門業者という選択肢
この観点から見ると、外部の添削専門業者は必ずしもリスクの高い存在ではありません。
むしろ、
業務として情報管理を前提にしている
関与する人数や範囲があらかじめ限定されている
同じ研究分野内での非公式な情報共有の連鎖に入りにくい
といった点で、適切に選べば合理的な選択肢となり得ます。
内部の研究支援を受けるにしても、
どのような運用で情報が扱われるのか
どこまで共有される前提なのか
を明確に認識しておく必要があります。
情報のコントロールという視点
申請書の取り扱いにおいて重要なのは、
「公開か非公開か」という二分法ではなく、どの程度コントロールされているかという視点です。
たとえば、
共有する相手を限定する
目的ごとに開示する情報の範囲を分ける
やり取りの記録や管理方法を意識する
といった基本的な運用によって、情報の拡散リスクは大きく変わります。
これは特別な対策というよりも、
研究費申請の一部として意識的にコントロールされるべきことです。
申請書を単なる提出書類として扱うのではなく、価値を持つ情報資産として捉えることで、その扱い方も自ずと変わってきます。
おわりに
申請書には研究の競争力に直結する未公開情報が含まれています。その意味で、単なる提出書類ではなく、「営業秘密に近い情報」としての側面を持っています。
重要なのは、
どこまで共有するのか
誰に見せるのか
どのように扱われるのか
を意識し、コントロール可能な状態を保つことです。
その前提があってはじめて、質の高い申請書が成立し、結果として採択可能性を高めることにつながります。
外部資金ジャパン
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