第163回 大学発ベンチャー企業を立ち上げる際に必要なこと―研究成果を社会実装するための視点―
大学の研究成果を社会へ届ける方法として、「大学発ベンチャー」という選択肢があります。
大学の研究成果を社会へ届ける方法としては、企業への技術移転や共同研究などが行われてきました。
しかし現在では、研究者自身が大学で生まれた技術や知見をもとに会社を設立し、事業化を目指すケースも珍しくありません。
経済産業省の調査によると、2025年10月時点で確認された大学発ベンチャーは6,220社に達し、企業数、前年度からの増加数ともに過去最高となっています。
では、大学の研究者が実際に大学発ベンチャーを立ち上げる場合、何が必要なのでしょうか。
今回は、大学発ベンチャーを立ち上げる際に意識しておきたいポイントを紹介します。
研究成果だけでは会社は成り立たない
研究成果は、大学発ベンチャーの出発点です。
しかし、事業を成立させるためには、
「誰がお金を払ってくれるのか」
を明確にする必要があります。
優れた技術でも、
・市場が存在しない
・既存製品との差別化が難しい
・価格競争に勝てない
のであれば、事業として継続することは困難です。
研究では「新しい知見」が重要ですが、事業では「顧客の課題を解決できるか」が重要になります。
この視点の切り替えは、研究者にとって最初の大きな壁かもしれません。
知的財産の整理は早い段階で行う
大学で生まれた発明の場合、大学に権利が帰属するのか、研究者側に権利が帰属するのか、大学の規定を確認しておく必要があります。
そのため、
「自分が発明したから自由に会社で使える」
とは限りません。
大学発ベンチャーでは、
・特許出願
・ライセンス契約
・共同出願の整理
・共同研究契約との関係
などを確認する必要があります。
特許を取得すること自体が目的ではありません。
投資家や企業との連携を考えると、知的財産が適切に整理されていることが大きな安心材料になります。
一人で起業しようとしない
大学教員や研究者は、自分の専門分野については非常に詳しい存在です。
しかし、
・経営
・営業
・資金調達
・採用
・会計
・法務
まで専門家である人は多くありません。
経済産業省の事例集でも、大学発ベンチャーでは研究者だけではなく、経営経験者や事業開発人材を含めたチームづくりが成功の重要な要素として紹介されています。
研究者が技術に集中し、経営は経験者が担う体制のほうが成功しやすいケースも少なくありません。
大学との関係を大切にする
大学発ベンチャーは、大学と対立する存在ではありません。
むしろ、
・研究室
・産学連携部門
・知財部門
・URA
・利益相反委員会
など、多くの部署との協力が欠かせません。
兼業の手続きや利益相反管理、大学施設の利用など、学内ルールを理解しながら進めることが重要です。
近年は大学側もベンチャー支援体制を整備しており、研究成果の社会実装を積極的に後押しする大学が増えています。
資金調達は科研費とは考え方が異なる
研究者にとって資金といえば科研費などの競争的研究費を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、ベンチャーでは、
・VC(ベンチャーキャピタル)
・エンジェル投資家
・金融機関
・補助金
・事業会社からの出資
など、多様な資金源があります。
科研費では「研究計画」が評価されますが、投資家は
「将来どのような事業になるのか」
を見ています。
技術だけではなく、市場規模、競争優位性、経営チーム、収益モデルまで説明できることが求められます。
起業はゴールではない
大学発ベンチャーを設立すること自体が目的ではありません。
本当の目的は、
研究成果を社会へ届けること
です。
会社を設立しても、
・製品開発
・資金調達
・顧客開拓
・規制対応
・人材採用
など、多くの課題が待っています。
むしろ会社設立はスタートラインに過ぎません。
長期的な視点で事業を育てていく覚悟が必要です。
おわりに
大学発ベンチャーは、研究成果を社会実装する有力な手段です。
しかし、成功のためには優れた研究成果だけでは十分ではありません。
知的財産を適切に管理し、経営人材と協力し、大学との関係を築きながら、社会のニーズを見据えて事業を進めることが重要です。
すべての研究成果が起業に向いているわけではありませんし、ライセンスによる技術移転のほうが適しているケースもあります。
重要なのは、「起業すること」を目的にするのではなく、「研究成果を最も効果的に社会へ届ける方法は何か」という視点で考えることではないでしょうか。
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