第70回 申請書は「読まれていない前提」で書くべきである― 精読されない現実を踏まえた設計の再考 ―
科研費の申請書を書く際、多くの方が「しっかり読んでもらえるはずだ」という前提で文章を構成しています。
もちろん、審査員の中には丁寧に精読される方もいらっしゃいます。しかし現実的には、限られた時間の中で多数の申請書を扱う必要があり、すべてが隅々まで精読されるとは限らないという状況も存在します。
この点に触れることは、精読されている審査員に対してやや失礼に感じられるかもしれません。しかし、申請書の設計を考える上では、この現実を前提にすることが極めて重要です。
本稿では、「読まれていない前提」で申請書を書くとはどういうことかを整理します。
「読まれていない」とはどういう意味か
ここでいう「読まれていない」とは、内容が無視されるという意味ではありません。
そうではなく、
最初から最後まで丁寧に追われるとは限らない
重要な箇所だけを拾い読みされる可能性がある
短時間で全体像を把握しようとされる
といった読み方が現実的に起こり得る、という意味です。
したがって問題は「読まれないこと」そのものではなく、
短時間でも正しく理解される設計になっているか
という点にあります。
精読前提の申請書が抱えるリスク
「きちんと読めば分かるはずだ」という前提で書かれた申請書は、次のようなリスクを抱えます。
重要な主張が後半に埋もれている
前提を丁寧に説明しすぎて要点が見えにくい
論理は正しいが、把握に時間がかかる
このような申請書は、時間をかければ評価される可能性がありますが、短時間で判断される場面では不利になり得ます。
「一読で分かる」ことの重要性
では、どのような状態が望ましいのでしょうか。
結論はシンプルです。
一読して、大枠が理解できること
具体的には、
何を明らかにする研究なのか
なぜそれが重要なのか
どのように進めるのか
が、短時間で把握できる状態です。
ここが成立していれば、精読される場合にもスムーズに理解が進みますし、そうでない場合でも評価の土台が確保されます。
わかりやすさは「配慮」である
「わかりやすく書く」というと、単なる文章技術の問題に見えるかもしれません。
しかし本質的には、これは
読み手の状況に対する配慮
です。
審査員は専門家であると同時に、限られた時間の中で多くの判断を求められる立場にあります。
その中で、
すぐに理解できる申請書
何度も読み返さないと把握できない申請書
があれば、前者が有利になるのは自然なことです。
設計の問題として捉える
重要なのは、「わかりやすさ」を表現の問題にとどめないことです。
多くの場合、分かりにくさは
情報の配置
強調の仕方
論理の順序
といった設計の問題として生じています。
したがって、
どう書くかではなく、どう構成するか
という視点で見直すことが必要になります。
添削の役割
この点において、添削は重要な役割を果たします。
第三者の視点から読むことで、
どこで理解が止まるか
どこが読み飛ばされやすいか
何が一読で伝わっていないか
が具体的に明らかになります。
これは、自分では気づきにくい部分でもあります。
おわりに
申請書は、「丁寧に読めば分かる」だけでは十分ではありません。
むしろ、
限られた時間の中でも正しく伝わること
が求められます。
そのためには、「精読される前提」から一歩離れ、読み手の現実を踏まえた設計を行うことが重要です。
結果としてそれは、どのような読み方をされた場合でも評価されやすい、強い申請書につながります。
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