5○ goén 「シンクロニシティの午後」 No.94
身体に宿る、見えない音の行方
コンテンポラリーダンサー、micaとの撮影。
僕がお願いしたのは、ただ一つ。
無地の黒いドレスを着てきてほしいということだけだった。
彼女は一枚の音楽を持参した。
再生ボタンが押された瞬間、部屋の空気が少し変わった気がした。
踊っていたのだと思う。けれど、僕にはそれが「振付」には見えなかった。

音が耳に届き、脳へ伝わり、身体を動かしているのではなく、
音そのものが、細胞の奥へ入り込み、
骨や筋肉を借りて姿を現しているように見えた。
だからだろうか。
激しく動いている瞬間よりも、ふいに静止した一瞬のほうが、むしろ強く何かを語っていた。
身体は止まっているのに、表現だけがまだ動き続けている。そんな不思議な時間だった。

僕は指示を出さない。ただ、その場に流れるものを見つめ、
心が反応した瞬間にシャッターを切る。
彼女が音を身体に翻訳し、僕がその気配を写真に翻訳する。
後から思えば、あの日の撮影は作品づくりというより、
どこかで示し合わせたような小さな共鳴だったのかもしれない。
これがシンクロニシティと呼ばれるものなのか、
今でもよく分からない。
ただ一つ確かなのは、あの日、写真を撮っていたのは僕なのに、何かに導かれていたのもまた僕だったということだ。

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