2/15−2/23|春、幽霊になる季節
2/15|おれの憂鬱10万円、電気代は3万円
電気代が3万円もした。寒冷地でない木造の一軒家というのはまじで寒く、あらゆる暖房器具に頼った結果がこれである。それもまったく焼石に水というか、しかしその役に立たない水にも高騰する電気代がかかっているという、なんの罰ゲームでしたっけ、というような、誰も幸せにならない構図が出来上がる。
流石に何かを変えなければ、と石油ストーブを買いにゆく。ネットで目星をつけてはいたが、近くのお店で日本製の広範囲用、灯油タンクの安全性の高い構造、デザインもまあ許容範囲のものが(と書いてしまうととても偉そうで恥ずかしい、しかし日本の電荷製品ってボタンの上に“点火ボタン 押す“といちいちでかでかと書いてあるようなものが多くて、消費者ってそんなに信用のないものだろうか)クリアランスセールで予算の半分くらいの価格で売られていた。白と黒と銀色、銀色を買う。
灯油を入れてスイッチを回す。やはり暖房にはない温かさ。はっきりと熱源があるのがいい。
静かで、火をつける時の匂いも、音も、それが揺れるのをみるのも心が落ち着くものだった。今いくらかかっているのかわからない電気代に怯えながら付けるという不安や心配が必要なシステムと比べて、あらかじめ灯油を買っておいて先にお金を払うのは個人的に好ましいやり方であるし。本当ならストーブの天面が熱くならないタイプが安心だったけど、なかったので、いっそパンとか干し芋とかを炙って食べてみようかな、乾燥が気になる日にはやかんを置いて湯を沸かそう。
来年はさらに寒気の侵入を防ぐべく、床にタイルカーペットを敷きたい。イエローの混じったシアンみたいな、ださめのくすんだ青がいい。
2/17|
眠くて眠くてたまらず、ここ二、三日ずっと眠っている。寝室でも作業部屋のストーブの前でも眠ってしまう。
ノリや音ゲーみたいな会話や声の大きさ、それが他よりも重視される場って苦手だなと思う。適応できた試しがない。全ての生き物とテキストでやり取りできたらいいのに、と思う。猫とも魚とも。
心が萎縮しているような外からの危機に備えているような感覚があって緊張している。他者のこちらを舐めているようなやりとり繰り返し思い出してる。緊張は首の後ろに溜まり、額が歪むような頭痛に変わる。
こんなときにたばこが吸いたくなる。重いタールのやつがいい。18ミリの、ラッキーストライクかアークロイヤルのバニラとか、でもそれももうずっと昔の思い出だとも思う。21歳の誕生日に自分はもう若くはないと絶望するような、そして少なくとも時間は永遠だと思っていて、その永さに飽き飽きしている人間のやることだと思う。
GANNE SAXのワンピースを着て、きつねの襟巻きを巻いて、だけど憂鬱な気分でいっぱいだった。いつかまたそんな暮らしを暮らしてみたい、もしも体も寿命もなかったら、あるいは私の人生が、何かの小説に書いてたみたいに18歳から21歳の3年を永遠に繰り返せば話だけれど。
2/20|ばれるための嘘をつく
流石に頭痛が続きすぎている。
寒気がしているのか実際に寒いのかがわからなかった。金属バット系で殴られたみたいな頭痛がする。
頭が痛くて微熱があります…とカレピッピの前で一通りクヨクヨして見せたものの予定通り同居者のバンドメンバーが揃って来訪。アトリエとしている一階の部屋の隣がリビングでそこに集っているので気まずい。ダウナーな気分になってしまったのでしばらく気づかないふりをして作業をする。トイレに出るタイミングで、わあ!作業をしていたので気が付かなかった!きてたんですね!という小芝居をしてから挨拶をした。なんの意味もない。一緒にどうですか、と言ってくださったのでありがたくちゃっかり参加する。売れたいと思ってる?まあそのために東京きたし、売れるってなんなん、数字の話?数字や結果は散々やったからもうええて、という話を美術と翻訳しながら聞く。ジントニックを頂いて、酒を飲むのは1年以上ぶり、ぐるぐると回る部屋の中で眠った。
2/21|ほろ苦い季節ならば春
夕食はバーニャカウダ、芽キャベツって柔らかくてほろ苦くておいしい。
蒸して輪切りにしたそれを口に入れ、噛むたびに葉のみっしりした重なりが解けてゆく食感の楽しさ。
2/22|春には春を思い出さない
急に暖かくなった。梅が咲き、スギ花粉は飛散している。9月の朝のことをどうして思い出したりするんだろう。
ストレンジャーシングスのシーズン5を見た。今回、敵役のヴェクナと直接的な戦闘しているのはエル、マックス、ナンシーの女子メンバー。ルーカスは病床のマックスの手を握ることでヴェクナの精神世界からの彼女の逃げ道を確保する。それはもしかしたら少し前には金髪碧眼のヒロインに与えられていた役割だったかもしれなかった。ホモソーシャルに染まり切ったバスケチームの試合でシュートも決められる少年の彼が、自らそれを選んでしてること。このドラマの信頼があるのはそういうところ。
2/23|幽霊の気分で
何かの歯車が噛み合ったのか、あるいはただ春がきたということなのか、朝起きたら妙に気分が良かった。朝食をとり作業し、10時になったので皮膚に陽を当てるべく近所のロイヤルホストに行ってモーニングを食べて、それを昼食とした。季節外れに暖かい日だった。Chelsea Daysを聴きながら森を歩く。My sweet Tokyo Casanova/ Patagonia sweater, Motorola 芝生のひかれた広場に突き当たり、そこで親に連れられてやってきた小さな子供らがポテトやアイスクリームを舐めているのや、大きなシャボン玉をしているのや、キャッチボールをしているのを見た。天国に似た風景だった。雲ひとつない穏やかな日で、今日、自分の価値観はこれから生きてゆく側からこれから死んでゆく側に回ったような気がした。
他、英語をやって日記を書いて絵を描いて映画を見た。
ブロッキン、というアプリを入れて、1日の22時間くらいのSNS、動画サイト、ネットニュースを見ないようにしている。最近は次第に集中力が回復してきた。集中力というか、没入の快楽っていうか。脳みそから出ないのはなんていう心地の良さだろう、明日からもこの海の底みたいな場所に戻れるようなそんな気がする。
わたしはもっと自らの継続欲のなさに危機感を持つべきだ。7月です。
