五日間の旅行から帰って来たのは夜中だった。運転に疲れ、ただもうベッドに横になりたかった。それでも持てる限りの荷物を運びながら、最後の階段を上がっていくと何かを踏んづけた。足元は真暗だった。何か、ちょっと大きな蛙くらいの塊だった。生き物かと思って一瞬足を抜き上げかけたが、疲れは、もう蛙でもかまわないと言って踏み切った。
その三歩あとにもまた何か踏んだが、今度はジャリっという音に本能は土くれだと言った。そんなところに土くれがあるのはおかしいが、考えたくなかった。
階段を登りきって暗い庭を見渡したが何も変わった様子は見えない。真暗なので見えなくて当然だが、急を要する異変はないと本能は察したので、あとは望み通り鍵を開け、家の中に入り、荷物を降ろして、顔を洗って歯を磨き、ベッドに倒れた。シーツは少し湿っていて薄ら黴臭い。窓は開けたのだしと、もう、そのまま眠った。
朝は明るかった。それでも青空ではなかった。海は静かだった。水を飲んで縁側に立つ。庭は夏の緑。少し異変を感じる。昨夜何かを踏んだ正面の階段に、小さな土砂崩れが起きている。
「…まじかぁ。」
サンダルを突っかけて玄関を出た。
手にはマグカップ。
しかし出てすぐ目に入るのは、縁側からは見えなかった庭の部分。こちらにも異変を感じる。刈り遅れた草の緑が少ない。
きょとんしたまま見つめていたら、納屋の影から庭の真ん中辺りまで、徹底的に土が掘り返されているのが見えてきた。
「まじかぁ。」
抱え切れないのでそのまま通り過ぎ、階段の小さな土砂崩れを見に行くと、ああ、これも、法面が掘り返されて崩れたのだった。
「まじかぁ。」
踏まれた蛙らしきものは見えなかった。あったのはごろごろとした大きな石ころだった。それは良かったが、復旧はどう見ても大変にしんどい。考えなくてもわかる。石ころを蹴りつけて、マグカップの水を飲み干した。
玄関前の庭へ戻って地面のその乱れようを観察してみる。そこらじゅうぼこぼこにやたらめったら掘り返し回されている。いろんな花が植えられていたのに。
見慣れた場所の見慣れない景色がしかし何だか面白い。ここまでやられると笑えてくる。空のマグカップを引っ掛けた手をぶらぶらさせた。
縁側の方へ行ってみると奥の角の辺りがひどい。地面を這わせた雨樋を吹っ飛ばして盛大に掘り返してある。
しゃがみ混むとマグカップをぽいと置いて、素手のままとりあえず雨樋を戻そうとする、が、肝心の桝が土に埋まってしまっているのだった。
「まじかぁ。」
まずコーヒーでも淹れよう。うん。
手袋とスコップを出すのは後にして。
マグカップを拾いあげて土を払う。
来たのだ、ついにここまでも上がって来たのだ。
猪である。
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