(小説)「山へ行く」4. メラニーは、グルノーブル郊外で育った。
4.
メラニーは、グルノーブル郊外で育った。アルプスの山並みがそびえ立ち、春夏秋冬いつでも美しい町だ。
子供の頃から、家族や友達と休みを過ごすと、いつも山に行った。
山と言っても、モンブランやグランド・ジョラスに登るわけではない。数時間で往復できる、短いトレッキング。皆でおしゃべりをしながら登れるような山だ。登山に適した靴さえあれば、あとは道具など要らない。
幼馴染のオーレリーは、今でも昔と同じ郊外の町に住んでいる。高校時代の初恋の相手、アレクサンドルと結ばれて、子供が三人いる。
アレクサンドルとは、メラニーも元クラスメイトだった。若い頃に、三人一緒に映画を見に行ったり、山歩きをしたこともある。
今回は、オーレリーの一家5人に、クリストフとメラニーを加えた7人で、アルプスのトレッキングをする予定だった。
「そうだ、クリストフが行けなくなったことを知らせなくちゃ」
メラニーは早速、オーレリーに電話をかける。
「アロー(もしもし)? オーレリー?」
「あっ、メラニー……」
電話口のオーレリーの雲行きが怪しい。幼い頃からの友人だ。ずっと離れていても、そういう気配が手に取るように伝わってくる。
「……オーレリー? 何かあったの?」
「メラニー……。私から、電話しようと思っていたんだ。
あのね、マティスが第一志望のランス大学に合格したのよ!」
オーレリーが、わざとらしいほど明るい声を出した。
「ハンドボール・チームが強いことで有名な大学。マティスが、高校1年の時からずっと、ここの体育学部に入りたいって言ってたんだ。
でも本人も私たちも、たぶん無理だと思っていたの。マティスってスポーツ万能だけど、他の科目の成績が悪かったから……」
オーレリーは一気にまくし立てた。
「地元の大学に入れれば、それだけでも十分ありがたいと思っていたんだけれどね。それが……昨日、ランス大学から合格通知が届いて……」
オーレリーは、感極まって叫び声のような話し方になった。
「あぁ、あのマティスが合格できたなんて、信じられない!」
メラニーは、耳からスマホを少し離した。続きは聞かなくても想像できた。
案の定、オーレリーは明日から、マティスと末っ子のルナを連れて、ランス市内のアパートを探しに行くという。
「早く行かないと、いいところはどんどん決まっちゃうでしょ? さすがに、見学しないで賃貸契約を結ぶのは怖いし……」
明らかにオーレリーの頭は、息子の大学合格とアパート探しのことで一杯なようだ。
普段なら、頭の回転が速いメラニーは、皮肉のひとつでも言い返しているところだ。だが、今回は突然のことで、脳が全くついていけない。
山を歩いているオーレリーたちと自分の姿が、消えてなるものかとメラニーの脳裏にしがみついている。
「……私の、バカンスは、どうなるの?」
他には何も言葉が浮かばない。
それだけ絞り出すように言うと、メラニーの手から力が抜ける。すんでのところでスマホを落としそうになった。
