すてきな女むてきな女16 〜2025 忘年会〜
2025年12月31日、なっちゃんと7ヶ月ぶりに会うことになった。
こんなに長く会わなかったのは再会してから初めてのこと。
なっちゃんはいつもの仕事に加えて、日光に纏わる本の編集で忙しくしていた。
待ち合わせは、いつも2人で寄る地元のファミレス。ちょっとした田舎なので年末ともなるとここくらいしか開いていない。そしてこのファミレスも15時で閉店予定だ。
ファミレスの前で待っていると、なっちゃんは鮮やかなオレンジ色のロングコートを纏って現れた。その姿を見た瞬間、師走の寒さが吹き飛んだ。
席につきコートを脱いだなっちゃんは黒のふわふわとしたトップスの左胸にカラフルな魚のブローチをつけていた。
素敵なブローチ!(あとでブローチのことを聞いてみよう)
日光のお土産と手紙、さらに誕生日プレゼントまで用意してくれていた なっちゃん。プレゼントの箱を開けると、刺繍とキラキラとしたストーンがついた羽の形のブローチが入っていた。
「MY BOBの。これから少しずつ集めようと思ってて」
そう。なっちゃんの左胸の素敵なブローチと同じブランドのものだった。
「嬉しすぎる。なっちゃんのそのブローチ、素敵やなって思っててん」
MY BOB
Geoffroy Moreels氏が手がけるベルギーを拠点とするハンドクラフトブランド。伝統的な帽子や、カラフルな高級アクセサリーを専門として、ベルギーの創造性と国際的な職人技をミックスしたものづくりをしている。
MY BOB は見ているだけでワクワクする、楽しくてハッピーな気分にさせてくれる。
なっちゃんはどれが似合いそうか、私の服装や顔を浮かべながら選んでくれたんだろうな。私の好きな黄色が入っている。なっちゃんがこのブローチを選んでくれている姿を想像して、心底嬉しかった。
職場で不甲斐ないプレゼントを貰ったばかりだったので、プレゼントってこう言うことだよな、と私はしみじみと噛み締めていた。
早速 ブローチをカーディガンにとり着けた。

なっちゃんとMY BOBのブローチと
2025年の1月3日 私たちはここで新年会をし、しゃぶしゃぶ食べ放題を動けないほど食べた。そして2025年12月31日もしゃぶしゃぶ食べ放題。
しゃぶしゃぶ食べ放題に始まり、しゃぶしゃぶ食べ放題で終わる2025年。
注文がひと段落するとなっちゃんが真顔で話し出した。
「むくみちゃんに会ったら話そうと思ってたことがあるねん。実はサキちゃんと会ってん」
「えっ! サキちゃんに会ったん!? どうやった?」
私はしゃぶしゃぶの湯気が顔に直撃するのも構わず前のめりになった。
サキちゃんはなっちゃんの幼馴染。2人はこまめに連絡を取っているのに、なぜか30年程会っていない。私はサキちゃんのことを詳しくは知らないけど、名前や顔は知っている。
兼ねてから、2人が会わないことが不思議だった。そして早く会って欲しいな と思っていたので、会ったと聞いてとても興奮した。
でも、なっちゃんは残念そうにこう言った。
「住む世界が違いすぎて、びっくりした」
長らく会わない間にサキちゃんは別人のようになっていた。私が知って イメージしていたサキちゃんとも大きくかけ離れ、なっちゃんの落胆ぶりが痛いほどよく分かった。
私にも10年ほど前に、そんなことがあった。昔 少しだけ付き合っていていた中川くんと会った時のこと。
会話が弾まない。考え方が違う。知っていることが違う。
そして決定的だったのは私の鼻が彼の匂いを全く受け付けなかったこと。隣に座るのも辛かった。
昔は好きだったのに、なんでこんなに合わないんだろう。
環境とはそんなにも人を変えてしまうのだろうか。働く働かない、結婚するしない、子供がいるいない、映画を観る観ない、本を読む読まない。
これだけ情報に溢れた世界で、何に触れ、どんな生活を送るかで人の考えも性格も変わっていくのだろうか。
人としての根っこはそのままなのかもしれない。と思っていたが、その根っこだって、しっかり大地に張っていなければグラグラになってどこかへ吹き飛ばされてしまうのかもしれない。
会わずにいる間は、自分の脳の中で永遠に変わることのないその人との思い出やイメージが、会うことでガラガラと崩れてしまうことだってある。
時に人は再会しない方がいいことだってあるのかもれない。
私は「サキちゃんや中川くんが変わってしまったのだ」と思っていた。けれども、もしかすると なっちゃんや私が変わってしまったのかもしれない。
そして36年の時を経て再開したなっちゃんと私がこんなに合うことって、凄い奇跡なのかもしれないと思った。
サキちゃんとのことは残念だったけど、私たちはその後 仕事やお互いのパートナーの話で盛り上がり、しゃぶしゃぶを頬張り、ソフトクリームで締めくくると閉店時間の15時にファミレスを出てハセショ(長谷川書店)へと向かった。
ネンさん(ハセショの店員さん)は少しも変わらない、いつもと同じ穏やかな笑顔で出迎えてくれた。
なっちゃんはあんなに素敵なプレゼントをくれたにも関わらず、「むくみちゃん、この本好きやと思う」そう言って松家仁之著「火山のふもとで」をプレゼントしてくれた。
私はなっちゃんより知っている書籍が圧倒的に少ない。だからなっちゃんに合いそうな素敵な本を選ぶことができなくて、いつも申し訳なく思う。
ネンさんは「2人ともだんだん似てきてるね」と言ってくれる。
因みになっちゃんと私の顔は全然似ていない(笑)何が似ているのだろう。私はなっちゃんに似ていると言われるのがとても嬉しい。けれど少しだけなっちゃんに申し訳ない気がする。なっちゃんは私よりも素敵だから。
ハセショを後にして同級生の戸田君が営むコーヒースタンド1976へと移動する。大晦日のコーヒースタンドは大盛況だった。
戸田君は私たちが来ることを知り、お店に小学校の卒業アルバムを持ってきてくれていた。
私となっちゃんは、恥ずかしさにキャーキャー言いながら写真と文集を読み漁った。
なっちゃんは私が文集を半分しか読んでいないのに、もうページをめくってしまう。元編集者だけあって文章を読むのが早い。いや、私が遅すぎるのかもしれない。私は音読くらいのペースでしか文章を読めない。だから書くのも遅い。きっと書くのも読むのも人の倍くらいかかっている。
「読むのなんて遅くったっていいよ」
なっちゃんはそう言ってくれるけど、もし倍の速度で読めたなら一生のうちで読める本は倍になる。1冊の本を読むのにかかる時間は半分で済む。そうすると読書に限っては時間が倍になるんだから断然お得だと思う。
日も暮れてきて、お客さんは私たちだけになった。
気がつくと閉店の17:00をとっくに過ぎていた。戸田君に詫びて1976を後にした。
1976のInstagramより。

ひと言を記したカードを描いている
下段左から 2番目:私 3番目:なっちゃん
中央の大きなのは戸田君
なっちゃんからの日光土産は金箔入りのカステラだった。お正月にちょうどいい。
卵がたくさん入ってとっても濃厚で美味しいカステラだった。
カステラに付いていたはおみくじは大吉。きっと2026年はとてもいい年になる。そんな予感しかしない。

そして手紙の中には2026年のカレンダーも入っていた。
私の母への手紙も預かったが、母へのカレンダーは私とは全然違う絵柄だった。
このカレンダーもなっちゃんが私と母のことを思いながら選んでくれたのが伝わってくる。

私はなっちゃんのことを思う時、本当に気持ちが温かくなる。友達に対してこんな気持ちになるのは小中学生以来なかった気がする。
大人になるにつれて、友達に対してもマイナス感情を抱いてしまったり、何かしら蟠りを抱えたり、負の要素がなくてもここまでほっこりした気持ちになれなかったり。
子供の頃のような純粋な友情を私に思い出させてくれるなっちゃん。
本当にありがとう。
そして2026年もよろしくね。
